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7月11日 パーキンソン病のドーパミン神経の変性を遅らせる薬剤isradipineの治験は成功するか?(Journal of Clinical Investigation6月号掲載論文)

2018年7月11日
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パーキンソン病の原因を突き詰めていくと、特にドーパミン神経に特異的な原因で起こっているようには見えない。なのになぜドーパミン神経が選択的に変性しやすいのかは昔から重要な問題だった。これを説明する最も重要な現象は、ドーパミン神経が他の神経細胞とは異なり、心臓のペースメーカー細胞のように自発的に興奮を繰り返していることだ。そして周期的にチャネルを通して流れこむカルシウムが、このペースメーキングに関わるとともに、ミトコンドリアでの活性酸素を高めるため、他の細胞より変成しやすいのではと考えられて来た。この考えのもと、現在isradipineを呼ばれるカルシウムチャネル阻害剤を用いて、この活性酸素産生を抑える臨床治験が進んでいる。この治験結果が明らかになれば、この可能性が確かめられるのだが、実際にはこの治験の背景になっている、ペースメーキングに伴う細胞内へのカルシウム流入が、本当にミトコンドリアを刺激して活性酸素を出させて、細胞死を誘導するのか実験的にまだ明らかになっていない。

今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文は、この治験の妥当性をあらためて確かめる論文で、6月号のJournal of Clinical Investigation に掲載された。タイトルは「Systemic isradipine treatment diminishes calcium-dependent mitochondrial oxidant stress (isradipineの全身投与によりカルシウム依存的ミトコンドリアの活性酸素ストレスを軽減する)」だ。

この研究ではまず、ドーパミン神経の自発的ペースメーキングと樹状突起のカルシウムの周期的振動とが関連していることを、カルシウムイメージングと、膜電位の両方を同じ神経細胞で調べるパッチクランプ法を開発して調べている。この結果、ペースメーキングとカルシウム流入の振動は同期していること、そしてカルシウムの振動にはCav1.3チャネルが関わることを明らかにした。

その上で、Cav1阻害剤isradipineを加える実験を行い、Cav1阻害によりドーパミン神経でのカルシウムの振動を半分以下のレベルに抑制することができるが、膜電位の周期的興奮は影響されないことを見出している。すなわち、israpdipine処理は、ドーパミン神経の振動的興奮に必要なカルシウム振動は維持してドーパミン神経の機能を維持しつつ、Cav1を介する大きなカルシウム振動を抑えることで、ミトコンドリアを変性から守っている事を強く示唆している。そしてisradipinをマウスに投与することで、活性酸素のストレスを軽減し、オートファジーによるミトコンドリアの変性を抑制、最終的に黒質のドーパミン神経だけでミトコンドリアの変性が止まり、ミトコンドリアの大きさと数が増加している事を明らかにした。

以上の結果から、動物実験レベルでは間違いなく、カルシウムの大きな振動的変動が、ドーパミン神経特異的な変性の原因になっている事を示唆し、現在進んでいるisradipinの治験が論理的には正しいことを強調している。とすると、現在行われている治験結果に期待を寄せることができそうだ。もし現在の治験がうまくいかなかっても、原理は確かめられているので、例えばよりCav1.3に特異性の高い阻害剤を開発するなど同じ方向でパーキンソン病の進行を遅らせる方法を開発できる可能性も十分あると思う。

しかしいくつか問題がある。まず、症状が出始めた時には、かなりの数のドーパミン神経が失われている。このようなケースでも進行を遅らせることができるのはよくわからない。もう一つは副作用だ。実際の患者さんに使うとなると、この実験での投与期間とは比べ物にならない長期の投与が必要になる。これによる副作用がでないことも切に願っている。
  1. 橋爪良信 より:

    1.3や1.8は鎮痛作用で着目されていました。心筋に発現するisomer,1.5との特異性を持たせることが鍵になります。

    1. nishikawa より:

      コメントありがとうございます。

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