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7月18日:蛾の後羽根はなぜ長くなる(7月4日号Science Advances 掲載論文)

2018年7月18日
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ダーウィン進化の原動力を超単純化して説明するなら、集団内の多様性の出現と、環境への適応による自然選択で新しい種が生まれると言っていいだろう。ダーウィンの頃最も説明が難しかった、集団内での多様化の出現は、ゲノムを解読できる今、全く当たり前のことになっている。しかし、何が自然選択の圧力になっているのかを決めるためには、その種の生態を深く理解することが必要で、そのような研究に対しては我々のような素人はただただ感心するだけだ。

今日紹介するヤママユガの後羽根から突き出た長い尾羽根の進化に関わると考えられる自然選択圧についてのBoise州立大学の研究はそのような典型で、生物学の原点が観察にあることを教えてくれる研究だ。タイトルは「The evolution of anti-bat sensory illusions in moths (ガのコウモリの感覚を欺くための進化)」だ。

ヤママユガには数多くの種類が存在するが、中に後羽根から長く突き出た美しい尾羽根を持つガが存在する。これらのガはゲノムに基づいて幾つかの族に分類できるが、長い尾羽根は決まった族に存在するのではなく、ほぼ全ての族で現れていることから、それぞれの族の中で独自に現れると考えられる。

形態学的解析から、この長い尾羽根は飛行のために進化したと考えるより、ガの天敵であるコウモリをだますために、一種のおとりとして使われているのではないかと着想した。まさに、観察に基づいた着想が自然選択圧力を特定するためには必須であることがよくわかる。

そこで、コウモリにガをアタックさせ超感度高速カメラで追跡する実験を行い、長い尾を持つ方がコウモリのアタックから逃げる確率が上がることを確認している。しかしコウモリは超音波でガを認識しているはずで、どんなに長い美しい尾羽根を持っていても、視覚的にだまされるはずはない。しかし、アタックを分析すると長い尾羽根を持つガに対してはコウモリは確かに尾羽根を狙ってアタックしている。

次に今度は尾羽根を完全に切ってしまったり、短くしたりした後、コウモリがガの前か後かどちらにアタックをかけるか調べ、尾がなくなっても飛行にはあまり影響ないのに、コウモリのアタックは前の方に集中するようになることを示している。すなわち囮として機能している。

尾を長くしてきた選択圧は、コウモリの攻撃になる。コウモリが超音波を使って標的を決めると考えると、長い尾は動かすことで超音波を乱して、そちらの方にアタックを誘導すると結論している。アタックで後の尾が切れても命に別状はないので、コウモリの攻撃にさらされる種では、ゲノム進化とは全く別に、独立して尾羽根が長くなったという話しだ。この独立して生まれた長い尾羽根の背景にどんな遺伝的変異があるのか、興味は尽きない。

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