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7月20日:エピジェネティック制御によるガン免疫増強(8月9日号Cell掲載予定論文)

2018年7月20日
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ガンではDNAのメチル化やヒストンによるエピジェネティック機構が大きく変化しており、これを標的にガンを制圧しようと様々な薬剤が開発されている。ただ、ガンに特異的な薬剤というわけではなく、治療の切り札というには程遠い。そんな中、最近DNAメチル化阻害剤がガンの免疫誘導性を高めることで、ガンに効くのかもしれないという論文が現れて来た。

今日紹介するハーバード大学からの論文も同じ系統の話で、ヒストンの脱メチル化に関わるリジン特異的ヒストン脱メチル化酵素LSD1がガン免疫のアジュバント効果があるという話で8月9日掲載予定のCellに発表された。タイトルは「LSD1 Ablation Stimulates Anti-tumor Immunity and Enables Checkpoint Blockade(LSD1除去により抗ガン免疫が刺激され、チェックポイント治療が有効になる)」だ。

この研究では、ガン細胞の免疫原性を高めるようなエピジェネティック制御に関わる阻害剤をメラノーマ細胞でスクリーニングし、LSD1阻害剤やLSD1ノックダウンにより内因性のウイルスの発現が高まり、インターフェロンの産生が高まることを見出している。結局これがこの研究のハイライトで、あとはLSD1を阻害することでなぜガンのインターフェロン産生が高まるのかを調べ、実際に生体内でのガン免疫反応にも効果があるかを粛々と調べた結果が並ぶ。

メカニズムについてまとめると次のようになる。LSD1が内在性のウイルスの発現を抑制することはよく知られているが、この機能が阻害される事で内在性ウイルスの転写が始まり、ウイルスの二重鎖RNAが細胞内に蓄積する。二重鎖RNAは当然ウイルス感染が起こっているとして細胞内自然免疫系に察知され、インターフェロン産生など自然免疫系が刺激されるが、まさにこのウイルス感染と同じ状況がLSD1阻害により起こる二重鎖RNAの蓄積で誘導されているというシナリオだ。これに加えて、LSD1は二重鎖RNAを分解するRISCシステムのDicerの脱メチル化を高め、二重鎖RNAを分解するが、これが抑制されることでRNAの蓄積がさらに高まり、自然免疫を強く刺激することも示している。

要するに細胞内で働くCpGアジュバントと同じ効果があるという話なので、次に本当にガン免疫を誘導できるか調べている。使ったメラノーマは転移性が高く、免疫原性が低い細胞株だが、LSD1をノックアウトした細胞は免疫にキャッチされ、増殖が抑制される。さらに、抗PD1抗体によるチェックポイント治療とLSD1のノックアウトを組み合わせると、さらに延命効果が上がるという結果だ。

LSD1抑制により、内在性ウイルスの転写が活性化され、それがアジュバントの作用をすると言う話は面白く、今後利用する可能性はあると感じる。ただ、生体内での実験が全て遺伝子ノックアウトで行われているのは気になる。臨床のことを考えると、当然化合物を使うはずで、これに対する化合物は数多く存在する。なのに使わないというのは、副作用が強すぎるのか、免疫に影響があるのか、研究としては中途半端だ。さらに、PD1抗体を使っているわりには、根治が全くないのも気になる。

今後は、臨床側でもっと細工をしたほうが良さそうだ。LSD1に変異のあるガンでは確かに予後がいいことも示していることから、ヒトでも使えるはずだ。とすると、CpGアジュバントと組み合わせてガン内に徐放マトリックスとともに投与して見たら面白そうだ。RISCをブロックするなら、余計にCpGの効果が上がる可能性もある。是非トライして欲しい。

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