血圧で言えば、一日100円程度で服用可能な、既に長年使用されて来た薬剤を予防に使う可能性も最近は盛んに検討されている。今日紹介するオーストラリアNew South Wales大学からの論文は、血圧が140/90以上の未治療の軽度高血圧患者さんに、最初から3種類の薬剤の組み合わせを通常の半分程度服用させる治療を行なった経過を追跡する研究で、8月14日号の米国医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Fixed Low-Dose Triple Combination Antihypertensive Medication vs Usual Care for Blood Pressure Control in Patients With Mild to Moderate Hypertension in Sri Lanka A Randomized Clinical Trial (スリランカの軽度から中等度の高血圧患者さんに対する容量を固定した低容量3種混合降圧剤と通常の治療との比較:無作為化臨床治験)」だ。
この研究では収縮期圧140以上、拡張期圧90以上の初期の高血圧約700名(スリランカ人)を無作為に、個人の症状に合わせて行う一般治療か、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、クロルタリドン12.5mgの作用の異なる3つの薬剤を一つの合剤にした錠剤を一日一回服用の2群にわけ半年間追跡し、血圧低下作用を調べている。これらは長く使われた薬剤で、値段も安く1日にかかる薬剤費は100円程度だろう。病院には特に何もない限り1.5ヶ月目、3ヶ月目、6ヶ月目だけ訪れ、血圧の検査を行うという単純なプロトコルだ。
結果は従来のように1剤から初めて、結果を見ながら薬を変えたり増やしたりする従来法と比べたとき、最初から低容量(通常の半分)の3剤を組み合わせる方法の方が、ほとんどの人が抵抗なく服用を続け、1.5,3,6ヶ月と全ての時点で、血圧を正常に維持する効果が高い。一方副作用は、立ちくらみが起こるケースが多い以外は、両方のグループで特に変わらなかった。
話はこれだけだで、中所得国での話だが、臨床的には我が国でも考えて見る価値はある。まず血圧が高くなってきたばかりの患者さんに最初から低容量で3剤を組み合わせるというのは、安価で効果の高い標準治療として採用できる可能性が高い。さらにトクホに頼るぐらいなら、定期検診と組み合わせて、最初から市販薬としてこの合剤を服用するという可能性があってもいいとも思う。さらに、自宅で血圧を測ることが普通になった時代、容量をさらに減らした市販薬として服用させることも可能だ。もちろん、厳密な治験を行なってのことだが、このアウトカムは合剤が売れることではなく、医療費が削減できることだ。おそらく世界では、全く予防目的の治験もすでに進んでいるはずで、この結果も出てくると思う。そうなると、トクホより低用量の予防薬という時代が来るかもしれない。何れにせよ合剤にして一錠にまとめてくれる製薬会社が必要だが、この論文はそれを促すきっかけになると期待する。