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8月22日:MycN遺伝子増幅型神経芽腫の論理的治療法の開発(Nature Geneticsオンライン版掲載論文

2018年8月23日
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神経芽腫は転移があるのに自然に治るーケースから、MYCNの増幅している治療の難しいケースまで、多様な状態が存在する小児の癌で、まだまだそのメカニズムについてはわからないことが多い。そのためゲノム時代に入っても、新しい治療方針が開発されたわけでなく、メカニズムの理解に則した新しい治療標的の探索とそれに対する薬剤の開発が待たれていた。今日紹介する、ボストン ダナファーバーガン研究所からの論文は、神経芽腫を含むさまざまながん細胞の弱みを、クリスパーを用いた遺伝子ノックアウトを用いて探索した研究でNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Selective gene dependencies in MYCN-amplified neuroblastoma include the core transcriptional regulatory circuitry (MYCN増幅型神経芽腫が選択的に増殖に必要な分子のなかには転写調節回路の核になる転写因子がふくまれている)だ。

この研究ではクリスパー/Cas9を用いて遺伝子を網羅的にノックアウトするスクリーニングを行い、MYCN増幅型神経芽腫の細胞増殖に必要な遺伝子を147種類特定している。ただ、各分子を治療標的候補と考えるのではなく、まずそれらの腫瘍発生への関わりを調べることを重視して研究を進めている。実際にはこの中から、MYCN増幅型細胞株でスーパーエンハンサーにより強く転写が上昇している転写因子を選び出し、神経芽腫の状態を維持するための転写因子ネットワークを特定しようとしている。こうしてリストした分子の中から、最後に遺伝子ノックダウンを用いて神経芽腫の増殖に必須の5種類の分子を選び出している。驚くことに(というより期待通り)、これら5種類の転写因子は、互いにそれぞれの遺伝子調節領域にMYCNとともに結合して、これがスーパーエンハンサー活性に関与していることが示唆された。この悪しき増幅サイクルの結果、各遺伝子の発現はますます増幅される結果になる。すなわち、MYCNの増幅でこの悪しき増幅サイクルの引き金が引かれてしまうというシナリオだ。神経芽腫では遺伝子自体の変異は少ないが、このように増殖に必要な特定のセットの遺伝子が互いに増幅し合っているなら、治療が難しいのも納得出来る。

この増幅のサイクルを断ち切れないか、それぞれの遺伝子をノックダウンしてみると、一個の分子をノックダウンしても、MYCNを含む6種類の遺伝子の転写は全て低下したことから、増幅サイクルが確かに働いていることが示唆された。そこで各遺伝子をノックダウンする代わりに、スーパーエンハンサーを抑制することが知られているBRD4阻害剤と、CDK7阻害剤を同時に加えると、試験管内での神経芽腫細胞の増殖が強く抑制された。また、ガンを移植する生体実験系でも、根治はできてはいないが、神経芽腫の増殖を強く抑制した。さらに、このようなスーパーエンハンサー形成阻害により、MYCNを含む6種類の転写因子の発現の特異的低下が観察された。このことは、MYCN増幅から始まる転写因子の増幅サイクルが、神経芽腫発生に関わるというシナリオが実際に起こっていることを強く示唆している。

結果は以上で、神経芽腫の腫瘍性増殖に関するシナリオとしては、個人的には最も納得した。このシナリオだとがん増殖だけでなく、神経芽腫では全身に転移していても、なぜかあっという間に全ての癌が消えるということが普通に起こる理由も理解できる。おそらくMYCN増幅型の場合スーパーエンハンサーの形成阻害だけでは完全な治療は難しそうだが、それでも悪しき増幅サイクルを止める戦略は見えてきたように思う。

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