しかし開発が免疫療法だけに絞られたわけではなく、ほかの標的を求めて様々なトライアルが行われていることが今日紹介するイスラエルヘブライ大学からの論文を読むとよくわかった。タイトルは「Small Molecules Co-targeting CKIa and the Transcriptional Kinases CDK7/9 Control AML in Preclinical Models (CKIaとCDK7/CDK9キナーゼに効果を持つ阻害剤は前臨床モデルでAMLを制御する)」だ。
これまでの研究で、CKIaを抑えるとp53の発現が活性化して細胞が死ぬことがわかっており、このグループはCasein kinase 1(CKIa)の様々な阻害剤に絞って開発をしていたようだ。特に、CKIaを血液細胞でノックアウトすると幹細胞の増殖が抑えられることから、同じようなメカニズムで増殖するAMLガン細胞もCKIa阻害剤で殺せるのではないかと、直腸癌細胞株を用いてCKIa抑制作用があると思われるピィラゾール・ピリミジン骨格をもつキナーゼ阻害剤の活性を調べ、その中から経口薬として利用でき、副作用の少ない化合物としてA51を選び出している。この化合物は期待通り、p53タンパク質の発現を上昇させ、移植白血病細胞の増殖をほぼ完全に抑えることができる。また正常幹細胞にはほとんど影響がない。
この予想以上の効果の原因を確かめるべく、CKIaが分解される薬剤の効果と、キナーゼ阻害の効果を比べると、MYCやMDMの抑制効果などはキナーゼ阻害剤でしか認められず、全ての効果がCKIaだけで説明できないことがわかった。そこで、MYCなどの転写に関わるキナーゼに対する作用を調べ、A51がCDK7とCDK9の活性も阻害することを発見した。
そしてMYCなど多くの転写因子の発現を抑えることができるのは、CDK7/CDK9が阻害されることで、白血病で特に高まっているスーパーエンハンサー複合体形成が抑制されるためであること、またスーパーエンハンサー複合体の崩壊の誘導は薬剤投与後分単位の短い期間で起こり、その効果が長く持続されることも確認している。
最後に遺伝子改変により発症したAMLに対する抑制実験を行い、5週間は腫瘍の増殖を抑制できることを示している。
結果は以上で、まだ前臨床段階だし、100パーセントに効果があるわけではないので、この薬剤がAMLの特効薬に発展できるかどうかはまだ確実ではないと思う。ただ、白血病のスーパーエンハンサーを、より選択的に崩壊させることができる可能性が示された点で、ようやく転写レベルでガンを抑制する可能性が見えてきたように感じた。
白血病のスーパーエンハンサーを、より選択的に崩壊させることができる
→MYCなど多くの転写因子の発現を一気に抑えることができる