前回見たように、AIは知識を社会の階層性から解放する点に大きな可能性がある。これは仮想通貨をはじめとするブロックチェーンも同じで、仮想通貨の場合極論すれば中央銀行を頂点として出来上がっている階層性が壊れることを意味する。なら皮膚科の医師は失業してしまうのではと心配されると思うが、医師の仕事は診断だけではない。相談から治療まで多くの過程を進めないと意味がないことから、これまで以上に生産的な診療が可能になると確信している。ただ、どうしても診断に偏りがちな医学教育で教えなければならない内容も、大きく変化していくと予想できる。
そこで今回は、医療現場でのAIについても考えてみたい。このために世界最大のコンサルテーション会社の一つアクセンチュアが昨年発表した短いレポートをまず紹介しよう(https://www.accenture.com/us-en/insight-artificial-intelligence-healthcare)。経営のためのコンサルテーション会社がどこにビジネスチャンスがあると考えているのか、興味深い。タイトルは「Artificial intelligence: healthcare’s new nervous system (AI:ヘルスケアの新しい神経系)」だ。そして、出だしから2021年にはヘルスケア部門のAIマーケットが7000億円近くに達すると煽っている。そして、彼らがAIの伸びる分野として以下のトップ10を挙げている。
1、 ロボット手術:手術中に起こっていることをモニターし、的確な診断を下し、外科医を手術に専念させるとともに、手術ごとに学習を繰り返し、外科医の意図する動きと、意図しない動きを区別して手術を行う。要するに、車の自動運転で、この方法が普及すると、殆どの病院に手術ロボットが売れる。
2、 バーチャル看護支援:スマフォなどを用いた、いわゆる遠隔医療を考えればいい。
3、 病院管理支援:説明はいらないだろう。他のサービス部門に必要とされるように、IoTに基づく管理が進む。
4、 不正の発見:具体的に何を意味するのかよくわからない。
5、 薬剤投与の間違いを減らす:これもIoTによる管理。
6、 各機器の連結によるデータの統合的把握
7、 臨床治験参加者の追跡
8、 事前診断:これは前回紹介した、患者さんのレベルでかなり診断が行われることと同じで、これを病院から見ると、来院の後押しをするとともに、適切な診療を迅速に行える。
9、 自動画像診断:意外に期待が低いので驚くが、医学領域では最も期待されている。様々な画像をコンピュータで正確に診断すること。
10、 サイバーセキュリテイー:これも医療に限った話ではない。
1、2、8、9を除くと、全て病院の管理システムの効率化と、人的ミスを減らすのにAIが期待されていることがわかる。言い換えると、経済界が医療をどのように見ているのかが良くわかる。医療を大きな経済分野と捉えて(実際アメリカでの医療費の総支出は3400兆円に達し、GDP比率で17%を越す産業と言える)、AIで生産性(もちろん患者さんが治ることも含まれると思うが)を上げようと考えると、これらの項目になるのだろう。。
ただ、私自身はAIを含むIT社会では、経済とは別に患者さんの側から医療を再編成できるチャンスがある点に意義があると思っている。また、行政にしても、健康にかかる費用を減らすことがAIの最も重要なテーマになると思う。是非いつか持論を展開したいとは思うが、今回はアクセンチュアの挙げるトップ10の中から、医療に直結している、遠隔医療、画像診断、そして時間があればロボット手術分野へのAI利用の現状について論文をもとに紹介したい。