AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月14日:新石器時代ケニヤでの遊牧の影響(8月29日号Nature掲載論文)

9月14日:新石器時代ケニヤでの遊牧の影響(8月29日号Nature掲載論文)

2018年9月14日
SNSシェア
ナミビアの後、ケニアに入ってナイロビで一泊した。空港からホテルまで車から外を眺めていると、ナイロビはインドと同じように人が溢れているという印象がある。ただ大きな違いは、黙々と早足でしかも背筋を伸ばして歩いている人が多い。たまに走っている人も見かける。なんとなくマサイなど遊牧民の伝統を感じるが、思い込みだろうか。しかし、アフリカでは狩猟採取だけではなく、遊牧が3000年前から行われた痕跡があるようで、今日紹介するワシントン大学からの論文は新石器時代のケニアサバンナの遊牧民の痕跡についての研究で8月29日号のNatureに掲載された。タイトルは「Ancient herders enriched and restructured African grasslands(古代の遊牧民がアフリカの草原を肥沃にし再構成した)」だ。

ナミビアの砂漠地帯を走っているとアフリカの大地の多くが養分が少ない不毛の地だとわかる。ナミビア砂漠にも様々な動物を見かけるが、群れているのは珍しい。これは一匹の動物を支えるのに広い土地が必要だからだと思う。そこに、ケニアのように一部で森や肥沃なサバンナが広がる地帯が孤立して存在している。この研究では、このような新石器時代の遊牧民の暮らしが、ケニヤに存在する肥沃な土地をもたらしたと仮説を立て、それを土壌学から検証しようとしている。

これまでの発掘調査から、新石器時代の遊牧民が暮らしたことがはっきりしている場所を地層学的に調べると、最も表層の堆積物の下に15ー30cmの色の薄い堆積物が見つかる。この地層が遊牧民により形成されたと気づいたのがこの研究のすべてと言っていいだろう。この地層から採取した土を調べると、この土壌に多くの動物の糞から変化した様々な物質が他の地層の何倍も濃縮している。また、アイソトープを用いた生物成分の測定でも、これらが動物の有機物由来であることが証明できる。すなわち、遊牧民が家畜を連れて移動することで、家畜の糞が土壌の養分を高め、それを目指して多くの動物が集まり、有機物のサイクルが生まれて現在の肥沃なサバンナ地帯ができたと結論している。

もちろん地質学は素人の私には、よくわからない部分もあるが、おそらく以上が内容の全てだと思う。新石器時代から人間の活動が自然を大きく変化させてきたことは間違いないようだ。そのおかげで、今日見てきたケニヤのサバンナが成立していると思うと、感慨が深い。タイムリーな論文を紹介することができた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。