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9月26日:硬膜外刺激とリハビリが可能にする脊髄損傷の小さなステップ(9月25日号The New England Journal of Medicine掲載論文他)

2018年9月26日
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脊髄損傷では、損傷部位の上下を跨いで走る錐体路や感覚神経が切断されるため、感覚が失われ、また筋肉を動かす運動神経が失われる結果、運動機能が失われる。しかし、筋肉に直接神経を投射しているのは、脳から降りてくる錐体路ではなく、脊髄の神経節で錐体路ととシナプス接合している末梢運動神経だ。このことから足の運動に関わる末梢運動神経を、脊髄の硬膜外に埋め込んだ電極で直接刺激することで、筋肉を刺激しながら、運動を意識させるリハビリを繰り返す事で、基本的には電気刺激を用いる筋肉のコントロールによる下肢の運動に、脳のコントロールを回復される治療法、硬膜外電気刺激療法が開発され、様々なステージの患者さんに利用されてきた。この治療法では、脊髄損傷部位にかかわらず、腰椎1から仙骨1−2の間の硬膜外に足の運動に関わる重要な筋肉が動かせるよう電極を留置し、立ったり足を動かすリハビリを繰り返しながら、最適な刺激パターンを決める。すでにかなりの数の患者さんがこの治療を受け、

これまでの研究でわかったことは、
1) 少なくとも下肢の一部の筋肉の運動機能が回復するが、動かせない筋肉も現在のところは多い、
2)   感覚は戻らない
3) 排尿、排便、温度調節、性機能の一定の回復、
4) 精神的安定性が得られる
などが相次いでわかってきた。

今日紹介する論文は、様々なレベルの損傷後2−3年経過した4人の患者さんを治療した結果、頚椎を損傷した一人、および胸椎上部を損傷した2人が、実際に立って地面を歩けるまでに回復したことを報告した。この方法の開発者ルイズビル大学のHarkemaらが9月25日号のThe New England Journal of Medicineに発表した論文と、やはり地面に自力で立って、足を動かすところまで回復した一例についてメイヨークリニックからNature Medicineオンライン版に掲載された論文を紹介する。それぞれタイトルは「Recovery of Over-Ground Walking after Chronic Motor Complete Spinal Cord Injury(慢性の完全脊髄損傷患者さんを地面の上で歩けるまで回復させる)」と「Neuromodulation of lumbosacral spinal networks enables independent stepping after complete paraplegia(腰椎から仙椎の脊髄神経ネットワークの神経刺激により完全な麻痺が独立して足を動かせるところまで回復できる)」だ。

誤解がないよう強調するが、電気による神経刺激とともに、トレーナー総掛かりでしかも1−2年近いリハビリを繰り返した後の結果だ。従って、硬膜外電極を手術で埋め込むだけで治療が終わるわけではない。このため、この間、実際にどのようにリハビリが行われたのかなど、本当は詳しく知る必要がある。とはいえ、最終的に示された2人の患者さんのビデオが提供されており、これを見ればおそらく大きな進歩であることはわかってもらえる。論文はアクセスできないが、ビデオは自由に閲覧できるので、言葉で説明しないで、ビデオのウェッブサイトを以下に掲載しておくので、結果の説明としてみてほしい。

The New England Journal of Medicine (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803588?query=featured_home):クリックするとビデオを含むページが出てくるので、それを閲覧できる。

Nature Medicine(https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41591-018-0175-7/MediaObjects/41591_2018_175_MOESM5_ESM.mov):クリックするだけでビデオが出てくる。

専門家から見れば、体性感覚なしに目だけで補償してもうまく歩けるはずは無いといった批判もあると思うが、それでも一つの可能性が示されたと評価したい。 今日紹介した方法以外にも、介在神経を活発化させる方法など、今この分野が大きく動き始めている事を感じて喜んでいる。この辺の進歩については、脊損の伏見さんたちと一度Youtubeで放送を計画中。

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