タイトル「Clearance of senescent glial cells prevents tau-dependent pathology and cognitive decline(老化したグリア細胞を除くことでタウタンパク質による認知機能低下を抑えることができる)」で、Natureオンライン版に掲載されている。
9月19日に紹介した3編の総説のうち一編(http://aasj.jp/news/watch/8968)、および7月15日に紹介したNature Medicineの論文(http://aasj.jp/news/watch/8679)とも、メイヨークリニックの老化研究所からの論文だったが、今日紹介するのもグループは異なるがメイヨークリニックで、メイヨークリニックが老化研究に重点を置いているのがよくわかる。
今日紹介する論文の発想は、「同じ柳の下にドジョウ」の話で、発想は単純だ。異常Tauタンパクを発現するアルツハイマー病モデルマウスの認知機能の低下を、これまで用いられている老化によりp16が発現した細胞を薬剤でアポトーシスを誘導して除去する定番の方法ATTAC法を用いて防げるか?すなわちアルツハイマー病の発症に異常たんぱく質の蓄積だけでなく、グリア細胞の老化も関わっているのかを調べた研究だ。
まず予備実験として、変異型Tauを神経で発現させたトランスジェニックマウスの脳を調べ、期待通りp16を発現したアストロサイトやミクログリア細胞が集積することを確認する。そのあと、このp16陽性老化グリア細胞の増加を、薬剤でアポトーシスを誘導できるようにしたATTAC法で止められるか調べている。すなわち脳内のグリア細胞の中でp16陽性老化細胞を積極的に除去できることを確認して、タウタンパク質の沈殿によるアルツハイマー病の発症に老化グリア細胞が関わっているかどうかの実験に進んでいる。 すなわち、タウトランスジェニックマウスと、p16―ATTACマウスを掛け合わせ、3週間目からカスパーゼを活性化する薬剤投与を週2回行い、p16を発現した老化グリア細胞を除去し続けると、海馬でのタウタンパクの蓄積を防げることを示している。
また、タウトランスジェニックマウスは8ヶ月で神経変性を起こしてくるが、この神経変性をATTACによる老化グリア細胞除去で防ぐことができる。
そして最後に、実際の治療を考えて、p16-ATTACトランスジェニックマウスを掛け合わせるのではなく、タウタンパク質が蓄積するアルツハイマーモデルマウスを、細胞のアポトーシスを防ぐ機能を持つBcl2の機能を抑えるABT263で治療することで、リン酸化タウの上昇を抑えられるか調べ、見事にタウタンパク質の沈殿を抑えられることを示している。
アポトーシスを逆に高めてやることが、アルツハイマー病を抑えることを示したわけで、これが本当ならこの分野の創薬は大きく変化する可能性がある。今後他にも、オンコリティック薬剤としてやはり期待されている非特異的キナーゼ阻害剤ダサニチブもテストされるだろう。研究のシナリオ自体は陳腐になっているが、同じシナリオを適用できる分野の幅がこれほど広がっていくのに、ただただ目を見張っている。