今回のノーベル賞にちなんで、何かチェックポイント治療に関わる論文が手持ちのリストにないかどうか見てみると、一つ総説があったので、今日はそれを紹介することにした。コーネル大学医学部を中心として、様々な国の臨床家が集まって書いた総説で、ちょっと古いが9月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「The hallmarks of successful anticancer immunotherapy (ガンの免疫療法の成功のための指標)」だ。総説としては羅列的で、そう面白くはなかったが、扱う問題は大事だ。
さて私がガンの根治の鍵は免疫が握っていることをはっきりと認識したのは、実は現役を退いてから、CAR-Tと呼ばれるガン抗原に対するキメラ抗原受容体を発現するT細胞による白血病の治療治験の論文を読んだ時と、メラノーマに対する抗CTLA4及び抗PD-1抗体の効果についての治験論文を読んだ時だ。20世紀後半のがん免疫に関する研究が、ついに臨床に実ったと強く感銘を受けた。
とはいえ、すべての患者さんが免疫療法に反応するわけではない。どうしても反応する人と、反応しない人が出てしまう。この差を決めるさまざまな指標についてまとめているのがこの総説論文だ。ただ、まだまだ効果を前もって予測する決め手はなく、やってみないと分からないことが強調されている。総説の順番に紹介する。
ガン細胞側の要因 チェックポイント治療(CPT)は、すべての免疫機能を活性化するので、それがガンの治療に有効であるためには、まずガンに対する免疫が成立している必要がある。現在この指標が最もよく研究されている。
免疫成立には、正常には存在せず、ガンにだけ存在する抗原の存在が必要で、これをネオ抗原と呼ぶが、これはガンゲノムに突然変異が多いほど、存在する確率が高くなる。CPTが最初に認可されたメラノーマは日光にさらされ多くの変異があると考えられるし、肺がんもタバコをはじめとする様々な因子に晒されて変異が多い。最近、FDAはDNA複製エラーを修復する酵素の不全が認められる患者は、ガンの種類を問わず CPTの適用として認めたが、これも修復酵素欠損で突然変異によるネオ抗原の数が上昇するからだ。
また、ガン細胞内で自然免疫が刺激される状態にあると、免疫反応が高まるため、CPTも効果が高くなる。また、インターフェロンの分泌が高いと免疫の成立が抑えられることもわかっており、癌自体誘導性も治療の成否に深く関わる。
一方、癌自体が免疫を抑えると、予後が悪い。もともとCPTはPD-L1を発現する癌により、PD−1を介して免疫反応が弱められるのを、抗体で抑えるから効果を示す。その意味で、治療前のガンがPD-L1を発現している事は、この治療が効果を持つ可能性が高い。他にも、免疫機能を抑えるさまざまな分子が知られており、これらの発現から治療効果を予測することができる。
ネオ抗原は組織適合性抗原と結合してはじめて免疫原性を示す。そのため、がん細胞に組織適合性抗原が発現していないとCPTは効果が無い。このような免疫の標的になりにくいがんの特徴を知ろうと研究が続いているが、まだ認定されたガンの感受性指標はまだはっきりしていない。
癌組織浸潤細胞の要因 実際の患者さんのがんのリンパ球の構成を調べることは簡単でない。しかし、浸潤細胞の構成や、がん組織内での分布、そして浸潤細胞の機能を調べることは今後のCPTの効果を占う上で大変重要で、予後に関わるいくつかの指標もわかりつつあるが、まだまだ研究と経験が必要だ。 最も重要なのが、がん組織に癌を殺す機能を持つリンパ球浸潤がはっきりしていることで、これが多いと免疫が成立している可能性が高く、重要な指標になる。逆に、いわゆる抑制性T細胞とそれを誘導する樹状細胞の存在はCPTの効果が低いことを予言する。他にも最近では、NK細胞は免疫成立を高めることも知られている。 ただ、このような浸潤細胞の絶対数を算定することは簡単ではない。
組織上の浸潤細胞の分布も予後因子になる可能性がある。がんの中まで浸潤しているか、がんの周辺だけに存在するのかなど、世界規模の研究が進んでいる。今後、癌の組織像から効果が占える時が来るのではと期待される。 また、浸潤細胞により分泌されるサイトカインなどの種類も予後を知るのに利用できる。例えば、インターフェロンの発現はがん免疫の成立を抑制している。このような機能的な分子パネルを作成するために研究が進んでいる。
ガンのストローマと血管
ガンの活動を調節する最も重要な条件が、ガン周囲の環境で、ガン組織で間質細胞のタイプは予後を占う因子として、標識の探索が続いている。また、浸潤リンパ球の入り口になる血管細胞の性質もCPT の効果を予測するための重要な指標となる。ただ、これは当然ガンごとに多様で、はっきりとしたする分子マーカーの発見にはいたっていない。 全身性の要因
長くなるので、これ以上詳しい紹介はやめるが、もちろん様々な全身性要因も予後因子になることが知られている。例えば、腸内細菌叢がCPTの効き方に影響するという研究などはその典型だ。 結局この総説は羅列的で、まとまりのないものだが、結局まだまだCPTの効果を予測するのは難しいことを物語っている。このような状況から、一つの指標で確実に予後を占えないことは確かなので、指標を組み合わせて診断することが重要になる。いくつかの指標をdeep learningさせて診断するAIの開発で、ここでは紹介されていないが、最近論文の数が増えてきたことから、おそらく予後診断の中心になるような気がする。 もっとふさわしい論文を選ぶべきで、いつものことながら、本庶先生の期待を裏切ることになった。とはいえ、本庶先生おめでとうございます。
本庶先生ノーベル賞受賞おめでとうございます。
本庶先生著ブルーバックス『遺伝子が語る生命像』
昔読んで分子生物学って面白いなって感じたの思い出します。
現在(2019年2月16日9に近づいてきました。