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10月8日:骨髄移植後の腸内細菌を便移植により正常化する(9月28日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年10月8日
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様々な標的薬が開発され、最近ではCAR-Tなどの免疫治療が白血病に用いられるようになってきているが、現在でも白血病根治治療の主役は骨髄移植と言っていい。そして、現在もなお骨髄移植には一定の危険が伴う。その最大のものは、白血病細胞と同時にホストの血液幹細胞を除去して、移植細胞が定着しやすくするための放射線治療や化学療法による副作用と、移植骨髄の中のT細胞による宿主細胞への障害GvHだ。とくに前者は、一般のガンの化学療法と比べても徹底的に行うことから、腸内も含め体内の細菌を徹底的に除去し、移植骨髄の定着までは無菌室内に隔離する。

当然ながら、これまで完全に腸内細菌叢を除去すると、その回復には時間がかかることがわかっている。そして、最近の研究から腸内細菌叢のバランスにより、病原性の細菌の増殖が抑えられていることもわかっている。とすると、定着が確認され無菌室を出た患者さんもそれで安心せず、できるだけ早期に正常の細菌叢の回復を図る必要がある。今日紹介する米国スローン・ケッタリングガン研究所からの論文。これは移植前に採取していた本人の便の移植で実現できるか確かめた臨床治験で、9月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Reconstitution of the gut microbiota of antibiotic-treated patients by autologous fecal microbiota transplant (抗生物質の治療を受けた患者さんの腸内細菌叢を自分の便の移植で回復させる)」だ。

研究では、700人以上の骨髄移植を受けた患者さんの便の細菌叢の追跡を行い、100日経っても、細菌叢の量と多様性の回復が遅々として進まないことを確認している。しかし、腸内細菌叢の回復の遅延が移植の成績にどう関わるかは、大半の患者さんで細菌叢が正常化しないため、正確な比較ができない。そこでこの研究では、25人と少数ではあるが、骨髄移植を受けた患者さんを無作為に便移植群と、非移植群にわけ、骨髄移植後に移植処置前に採取していた本人の便移植により、細菌叢の回復を早めることができるか、そして便移植は骨髄移植と組み合わせても安全かを調べている。

結果は明瞭で、様々な手法で検査して、便移植を行うことで、細菌の量、多様性、いわゆる善玉菌の量など、どの点を取っても便移植は、細菌叢の正常化におおきな効果がある。そして何よりも、移植後定着が始まってからの便移植はこれまでのところ重大な副作用がないという結果だ。

これは治験研究で、エンドポイントといわれる評価項目を、安全性と、細菌叢の回復に絞っているため、それ以上の項目、例えば移植自体の成績への効果については何も述べられていない。しかし最終的に、腸内細菌叢の正常化が骨髄移植の結果に関わるかを知ることが目的なので、今後さらに大規模な研究が行われると予想できる。

もちろん便移植といっても、カテーテルでの移植で患者さんに不快感はないい、何よりもコストは低い。したがって、例えば移植後の腸炎などが減るという結果がでれば、当然一般治療として定着するだろうし、長期の生存率なども時間をかけて調べられると思う。しかし、同種骨髄移植過程を考えてみれば、このような治験はもっと早い時点で試みられるべきだったように思える。

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