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10月23日:携帯型人工腎臓は可能か? (ACS Nanoオンライン版掲載論文)

2018年10月23日
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現在わが国では約30万人の方が、血液透析治療を受けている。私が卒業した時と比べると、透析膜から貧血を防ぐエリスロポイエチンまで、透析技術は大きく発展し、患者さんの状態を維持できるようになったが、かなりの時間透析機に縛り付けられることは間違いなく、その結果持続的に24時間透析を行うことはできない。そこで期待されるのが、埋め込み型人工腎臓と呼ばれる方法で、現在様々なタイプの埋め込み型人口腎の開発が待たれていた。

一般的に携帯埋め込み型では透析のように多量に水を使うことは不可能なため、基本的には血中の尿素を直接吸着剤で吸収する方法が考えられる。そのため、最も重要なのは、尿素を直接吸着する化学物質の開発で、企業、アカデミアともに新しい吸着物質を目指して競争を繰り広げている。

今日紹介するDrexel 大学からの論文は、チタンカーバイドでできた多層シートが尿素を特異的に吸着して実用化可能であることを示した研究でアメリカ化学会のNanoにオンライン掲載された。タイトルは「MXene Sorbents for Removal of Urea from Dialysate: A Step toward the Wearable Artificial Kidney (MXene 吸着剤は透析液中の尿素を除去する吸着材として装着可能な人工腎臓への最初の一歩になる)」だ。

このグループはチタンカーバイドをベースにした3種類の化合物の多層シートが尿素を吸着できることを見出していたが、この研究ではTi3C2Tx型の分子で作った多層シートがもっとも高い吸着活性を持っており、血液透析でできた透析液に投入すると、セ氏37度で約8割の尿素を吸着することを明らかにしている。また、これまで使われて来た吸着剤(たとえば活性炭素)と比べた時、尿素だけを吸着する点が優れていることを強調している。

最後は細胞毒性、血液凝固活性などを調べ、この材料が安全に使えることを示している。

実際には、この材料を発見し、多層シートを合成することがこの研究の最も重要な核になるのだが、生憎それについてはほとんど理解を超えているため、装置着型人工腎臓としての可能性についてだけ紹介した。あとは、さらに吸着効率の高い材料を探しながら、使いやすい安全な製品に仕上げることだ。あくまで個人的印象だが、「装着型人工腎は可能か?」に関しては、「可能だ」と答えていいように感じた。

おそらく原理的に、現在の血液透析よりコストは下がり、患者さんの生活の質もあげられるという一石二鳥の製品ができるのではないだろうか。
  1. 五十君裕玄 より:

    週三回の血液透析を受けている患者です。尿素窒素の吸着は分かりましたが、埋込、携帯透析器で水の除去については見込が有るのでしょうか? 暫くアメリカの研究室で残して来た仕事をしたいと思うのですが。可能性についてご教授下さい。

    1. nishikawa より:

      まだ活性炭より特異性が高い吸着剤ができたという段階で、実用的携帯腎臓ができるためには、血液から血漿を抜いて、ウレアを吸着して、必要な量を戻し、水バランスを達成させるシステムが必要だとおもいます。ただ、うレア特異的なので、他の電解質はそのまま戻せるので、一歩前進だとおもいます。

  2. 岡田貞幸 より:

    世界の研究機関が統合して研究開発をしてください。
    お願いします。
    透析は苦痛です。看護師(男・女)ともに針の扱いが下手な人もいます。それと、透析屋さんの秩序規律礼儀は最低です。
    これだけは逃げたいです。一生続けると思うとぞっとします。早く人口の腎臓をおつくりください。
    国庫からもっとお金を研究費用に充ててくださる運動をしてください。代議士が運動を起こすべきです。
    透析患者は待っています。代わりのものがほしいです。

    1. nishikawa より:

      携帯腎臓についてはまた報告していきます。

  3. 中島敏弘 より:

    出来れば腎臓透析はしたくない体に負担があります。

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