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ミトコンドリアが原因の老化は元に戻る?(Cell誌12月19日号掲載論文)

2013年12月27日
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12月15日、埼玉県永井クリニックで行われた、卵子若返りのための核交換技術についての毎日新聞の記事を紹介した。この話の背景には、ミトコンドリア異常が老化の一つの原因だと言う考えがある。この考えは広く受け入れられているにも関わらず、老化に伴うミトコンドリア異常の本態については明らかではなかった。今日紹介する論文は、この異常の一端を明らかにしたハーバード大学の研究で、12月19日号のCell誌に掲載されている。タイトルは「Declining NAD+ induces a pseudohypoxic state disrupting nuclear mitochondrial communication during aging (老化に伴うNAD+の低下により擬似的低酸素状態が引き起こされ核とミトコンドリア間の連絡が途絶える)」。ミトコンドリアは細胞から独立して増殖出来る細胞寄生体としてよく知られている。とはいっても、細胞内に寄生してから進化の長い時間の間に、ほとんどの遺伝子はホストの核に移り、現在では13種類の遺伝子がミトコンドリアゲノムに残るだけになっている。このグループは元々老化に伴って、ミトコンドリア遺伝子にコードされている酸化的リン酸化システムの選択的低下が起こることを発見していた。今回の仕事では、この異常に関わるミトコンドリア側の遺伝子と、ホスト側の遺伝子にコードされた分子の相互ネットワークの詳細を明らかにしている。それぞれの分子の詳しい説明は専門的すぎるので省くが、老化によって、酸素消費型の呼吸に必須の電子伝達体NAD+が低下することがそもそもの異常の始まりであることを明らかにしている。この結果、酸素消費型の呼吸が低下するが、この異常を細胞は酸素がないと間違った解釈をし、酸素はあるにもかかわらずHIF-1aという低酸素に反応する分子を上昇させて、低酸素に対する防御反応を起こしてしまう。この結果細胞の核とミトコンドリアの連絡が絶たれてしまって、細胞の様々な異常が引き起こされるという結論だ。重要なのは、メカニズムがわかると老化防止も可能になることだ。カロリー制限が老化防止に役立つことは知られていたが、老化マウスのカロリーを6週間制限することで、低酸素状態と錯覚する反応が止まり、ミトコンドリア機能が正常化することが今回示された。さらに、引き金になるNAD+を補ってやっても同じようにミトコンドリア異常が元に戻ることもわかった。残念ながら筋肉の機能低下までは正常化しなかったようだが、今後、より長期の実験がヒトでも行われると、若返りのための科学的方法として定着するかもしれない。また、冒頭で引き合いに出した卵子若返り術も、核交換等しなくとも卵子にNAD+を補給するだけで解決する可能性は十分ある。一つ重要な問題が解決した。

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