ところが今日紹介するオーストラリア・モナーシュ大学からの論文はNASHと肝がんは共にNAFLに起因しているが、異なるメカニズムで発生することを示した論文で11月29日発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Obesity Drives STAT-1-Dependent NASH and STAT-3-Dependent HCC (肥満はSTAT-1依存的にNASHへと発展し、STAT-3依存的に肝ガンを発生させる)」だ。
基本的にこの研究は、マウスの疾患モデルで、遺伝子ノックアウトを組み合わせてNASHや肝ガンへと発展する際の分子機構を明らかにするという戦略で行われている。
この研究ではまず、脂肪肝になると肝臓内の脱リン酸化酵素(PTP)が酸化により不活性化されること、そしてその中のPTP1BとTCPTPは人間の脂肪肝でも上昇していることから、これが脂肪代謝から肝臓病へと発展する引き金だと特定する。これらの脱リン酸化酵素はサイトカインの下流シグナルとして有名なJAK/STAT経路を抑制することが知られているので、肝臓でのSTATの活性を調べると、NASHではPTPが酸化により抑えられる結果、STAT-1とSTAT-3が上昇していることを明らかにする。すなわち、酸化ストレス、PTP酸化、PTP抑制、そしてSTAT活性化のシグナル経路が浮き上がってきた。あとは、これら一つ一つの疾患との関係を調べていけばいいことになる。
まずTCPTPを肝臓細胞でノックアウトできるようにしたマウスで、高脂肪食を食べさせながらTCPTPをノックアウトすると、リンパ球の浸潤も伴うヒトのNASHとほとんど同じ肝病変ができる。さらに、肝ガンも同じ様に誘導される。従って、TCPTP機能抑制と高脂肪食が合わさると、NASHや肝ガンの引き金が入ることが確認された。一方、脂肪食だけではNASHや肝ガンまでは発展しないので、人間の場合何らかのきっかけでTCPTPの活性が低下することが引き金になる。
ここまではこれまでのシナリオを支持するように思えるが、この後STAT-1およびSTAT-3を別々にノックアウトする実験系で、STAT-1をノックアウトするとNASHが、STAT-3をノックアウトすると肝ガンの発生を別々に予防出来ることを示し、これまでの通説だった、肝ガンの発生にはNASHとリンパ球の浸潤を伴う慢性炎症が必要であるというシナリオを完全に覆した。すなわち、TCPTPという入口が同じなため、一体化して見えていたNASHと肝ガンも別のプロセスとして考えたほうがいいという結論だ。
特に新しいテクノロジーを使っているわけでもなく、古典的な研究だが、当たり前として疑われなかったシナリオを書き直した面白い研究だと思う。脱リン酸化酵素の活性を上げるか、STATの活性を下げる工夫をすることで、治療可能性に繋がって欲しい。