今日紹介するモントリオール大学からの論文はまさにこの課題にチャレンジした論文で12月6日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Noncoding regions are the main source of targetable tumor-specific antigens(利用可能な腫瘍特異的抗原の主要な起源はノンコーディング領域)」だ。
おそらく著者らは、これまでのガン抗原探索がノンコーディング領域が異常な蛋白質を作りうる点を無視していたと最初から考えていたと思う。そして、もしこれらのタンパク質もガン抗原としてリストできれば、チェックポイント治療がこれほど効果を持つことも理解できるのではと考え、ガン抗原をより包括的に探すための新しい方法を開発し、それを検証している。
新しい方法では、ゲノムより先に、発現している遺伝子の中から、ガンでだけ見られる異常タンパク質があるかを調べるところから始めている。この時、正常と異常を区別するレファレンスとして、T細胞の最初の選択に関わる胸腺上皮の発現している遺伝子を用いたのがこの研究の重要な工夫だ。胸腺上皮で発現しているタンパク質を除いた後、がん細胞で発現の高いタンパク質については、ゲノム遺伝子と対応させたうえで、最後はガン細胞のMHCに結合しているペプチドと比較して、実際に抗原として機能できるペプチドを探索している。
この方法で、先ずモデルがん細胞でガン抗原としてがんを拒絶できるペプチドを同定し、それをゲノムと比べると、効果が高い抗原のほとんどがノンコーディング由来である事を発見する。
最後に同じ方法で、バイオプシーサンプルからペプチドを同定する試みを行い、やはりノンコーディング領域由来のガン抗原を発見することに成功している。残念ながら、このペプチドで免疫した結果はまた別の話として示されるのだろうが、2ヶ月あれば突然変異が少ないガンからも候補となるペプチドが見つかるとすると、この分野も着実に進んでいるように思える。特に、ノンコーディング領域の異常転写が抗原を供給しているとすると、ひょっとしたら複数の人にも効果があるワクチンが開発できる可能性すらある。一方、MHC抗原に結合しているペプチドと比べる最後のステップは、まだまだ日常に使うためには敷居は高いが、AIなどでなんとか抗原性を予測する方法の開発へ結びついて欲しいと思う。
ガン免疫は着実に進歩しているのに、この分野でわが国のプレゼンスは極めて低いと思う。この原因は基礎研究だけではなく、わが国の臨床研究の問題でもあるように思う。この原因をしっかり分析し、新しい人材が育たないと、ノーベル賞の後に何も残っていなかったことになってしまう。時間はないと思う。
効果が高い抗原のほとんどがノンコーディング由来である事を発見
Imp:
ゲノム医療の実装に向けて現場でも遺伝子。。。の単語を良く聞きます。やっぱり、ジャンクDNAと呼ばれる98%の部分も含めて考えないと正解にはたどり着けないのかもしれません。