この分子マーカーとしてこれまで最も利用されてきたのhが、MycN遺伝子の増幅だが、増幅があっても必ずしも悪性とは限らないことがわかっていた。その後ゲノム解析が進むと、臨床経過を予測する分子マーカーとしてALKやRas, p53などが挙がってきているが、臨床経過を完全に予測することはこれまでできていなかった。
今日紹介するドイツ・ケルン大学からの論文は200例を越す治療前の神経芽腫患者さんのゲノム解析を行い、臨床経過を予測するための分子マーカーを発見しようとした研究で、これまでの研究とは大差ないが、予後を決めるのがテロメアを維持するテロメラーゼ活性が高いかどうかで決まることを示した研究だ。論文のタイトルは「A mechanistic classification of clinical phenotypes in neuroblastoma (神経芽腫の臨床経過をメカニズムに基づいて分類する)」で、12月7日号のScienceに掲載された。
神経芽腫のゲノム解析としては特に変わったことをしているわけではないが、予後に関わる遺伝子変異の組み合わせを観察する中で、ガンの臨床経過を決めるのは、これらの変異があるかないかではなく、これらの変異によってテロメアの長さを維持する分子の発現が誘導されるかどうかだと着想する。この着想の背景には、2015年10月にこのブログで紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4231)、ハイリスクの神経芽腫の患者さんではテロメラーゼのゲノム遺伝子の再構成が見られるという同じグループの先行研究があり、その後もテロメアの維持と様々な遺伝子変異の関係を調べてきたのだと思う。そして、テロメアの維持に関わるゲノム遺伝子の変化だけではなく、その発現についても調べて、MycNなどこれまで危険因子としてリストされてきた遺伝子変異は、なんらかの形でテロメアの維持に収束することで予後に関わることを明らかにしている。
そこで神経芽腫の臨床経過を先ずテロメアの維持に直接関わるテロメラーゼやALTの活性化と相関させてみると、悪性の経過を取る神経芽腫はほぼ全てテロメアが維持されている一方、テロメアが維持できないガンでは経過は良好でほとんど死亡する患者さんがいないことを見出す。また、これまで臨床経過と関わるとされてきたRas やp53は、テロメアが維持されているグループでは、より悪性度の指標になるが、テロメアが維持できないガンでは、Ras/p53変異はほとんど経過に影響ないことも示している。
以上の結果から、神経芽腫の臨床経過に影響する遺伝子変異は多様なので、明確な分類には使いにくいこと、しかし、最初にテロメラーゼやALTの活性化などを調べてテロメアが維持できるかどうかを比べることで、臨床経過をほぼ確実に予測できる。その上で、さらなる修飾因子としてRasやp53の変異を付け加えることで、テロメアを維持している神経芽腫の悪性度をさらに詳しく分類できるという結果だ。
テロメアはガンにとって最も重要な因子の一つなので、どうしてこんなことがこれまで行われなかったのか不思議だが、ぜひわが国の子供でも、遺伝子検査とともにテロメア維持について調べ、こ分類が正しいかどうか確かめてほしいと思う。もしこの論文の通りなら、かなり確実で簡単な予後診断ができることになり、無駄な治療をさけ、治療の必要な場合は、迅速に行うことができるようになると期待できる。