現役を退いた後、最も時間を割いたことが、生命の存在しなかった38億年前の地球で生命誕生に必要な分子がどのように作られているのかについて、自分なりに理解することだった。1年近く、文献を読み漁った結果、自分でも十分納得できるシナリオが存在し、少しづつ実験的証拠が積み重なっているということがよく分かった。もちろん一つのシナリオが間違いなく地球上で起こったということは証明できないが、それでも無生物から生物というabiogenesisが十分自分でも想像可能な過程だということがわかった。この分野については学生さんもなかなか系統的に習っていないようなので、今では機会があれば講義もしている。そんなわけで、abiogenesisは個人的に特に注目する分野になっている。
今日紹介するのはAbiogenesis分野の大御所ハーバード大学Szostakの研究室からの論文で、酵素なしにRNA複製が起こる条件を探った研究で12月26日号の米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Inosine, but none of the 8-oxo-purines, is a plausible component of a primordial version of RNA (Inosineは原始的RNAの成分になる可能性があるが、8-oxo-purineが成分になる可能性はない)」だ。
RNAワールドが成立するためには、水の中で定常的にRNAが合成され、それがランダムに重合するだけではなく、出来たポリヌクレチドを鋳型に重合する必要がある。そのためには、どうしても水素結合でペアリングできる最低4種類のリボ核酸を合成することが必要になる。
このリボ核酸のabiogenesisについては2009年マンチェスター大学のサザーランドの研究室からこれまで考えられていた複雑な経路とは全く違うピリミジン合成経路が示され(Nature 459:239)、この経路を基本にプリンについても様々な合成経路が考えられるようになっている。その一つが8-oxo-purineで、ピリミジンと同じ中間体から合成でき、またピリミジンとペアリングできることが2017年に示された。
この研究では、この化合物を用いてRNA複製が可能かどうか調べた研究で、もちろん酵素を全く使わないでRNA複製を行わせる合成系にこの分子を(実際には重合しやすいように活性化したヌクレオチドにして加えている)加えると、複製がほとんど進まず、さらにエラー率が極めて高いことを明らかにしている。すなわち、いかにabioticに合成できても、複製に使えなければRNAワールドは成立しない。
代わりにSzostakらが示したのはイノシンで、ピリミジン(アデニン)からdeaminationでabioticに合成することができ、同じ複製実験系でシチジンと正確にペアリングして複製できるという結果だ。
このように、一歩一歩可能性を積み上げるという分野で、まだまだマニアックな分野で、しかも基本的には有機化学で、全く苦手な分野だが、abiogenesisと思うだけでなんとか理解しようと今年も面白い論文が紹介できたらと期待している分野だ。
今日はバイトの合間に拝読させていただきました。合成生物学とも関係ありそうです。
Abiogenesisは面白い世界です。
1月6日、メラノーマ関連の免疫療法のお話し、拝読しました。abiogenesisの話題で思いだしたのですが、リボソームの再構成も、物質からの生命の再構成に当てはまるように思いました。
Abiogenesisのけんきゅうは合成生物学とは違います。