AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 1月20日 遺伝子組み換え大腸菌を用いて高アンモニア血症を治療する(1月16日号Science Translational Medicine掲載論文)

1月20日 遺伝子組み換え大腸菌を用いて高アンモニア血症を治療する(1月16日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年1月20日
SNSシェア

体内のアンモニアのほとんどはは腸と腎臓で合成されるが、肝臓内で尿素に変換され無毒化されるが、肝硬変や解毒システムの突然変異により、血中のアンモニア濃度が上がると、脳に侵入して神経細胞が消失し、様々な脳症状が発生する。アンモニアの多くが腸内細菌により合成されることから、抗菌剤を投与することでアンモニア濃度を下げることも治療の一つとなっている。

今日紹介する米国のベンチャー企業Synlogicからの論文は、腸内細菌を殺菌する代わりに、腸内に存在するアンモニアをバクテリアの合成サイクルを用いてアミノ酸に変えてしまおうという研究で、1月16日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「An engineered E. coli Nissle improves hyperammonemia and survival in mice and shows dose-dependent exposure in healthy humans(操作したNissle大腸菌は高アンモニア血症を軽減し、マウスの生存を伸ばし、容量依存的効果を示す)」だ。

確かに言われてみるとなるほどと納得するが、アンモニアをバクテリアに処理させるなど凡人にはなかなか思いつかない。この会社では、これまでもプロバイオに用いられ安全性が確認されている大腸菌の系統のアルギニン合成経路に関わる様々な遺伝子を系統的に変換し、Synb1020と呼んでいるアンモニアを消費してアルギニンを合成する大腸菌を作り上げる。この研究は、Synb1020の前臨床研究と第1相試験になる。

まずマウスを用いた実験で、Synb1020が腸に定着し、アンモニアからアルギニンを合成できること、またアンモニアを解毒できないマウスや、チオアセトアミド投与による急性冠不全モデルを用いて、Synb1020投与が血中アンモニアの濃度を低下させ、マウスの生存を伸ばすことを示している。また、マウスや猿のモデルで、このバクテリアが腸以外の場所に移動しないこと、それ自身の毒性は強くないことを確認している。

最後に、健常人に量をエスカレートしながら投与する安全性試験を行い、5 × 10 11以下では副作用はないが、それ以上だと吐き気など軽い症状を示す人が出てくること、またアイソトープを用いた実験で、ヒトの腸内でもアンモニアを処理していることを示している。

結果は以上で、あとは肝不全で高アンモニア血症の患者さんに使うだけだ。アイデアは面白いので、ぜひ進めてほしい。もしうまくいけば、酵素欠損で肉親からの肝移植を待つ子供達にも朗報になるのではと期待する。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    今日は仕事で岐阜です。日曜日も論文up、すごいです。

    今回の話題は、Syntetic Biologyの典型的な医学応用の話題ですね。海外では、既にこんなところまで来ているんですね。驚き。

    丁度昨日、雑誌日経サイエンスの
    「細胞コンピュータ」(Synlogic社メンバーによる記事)
    「DNAコンピュータ」(ワインツマン研究所からの記事)
    読んだところでした。

    Cyborg Cellが体内を巡回、住み着き、病気を治療する未来が来そうな予感がします。

    ジャック モノーの「偶然と必然」にも再挑戦してみたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.