昨日に続いて2月20日号のScience Translational Medicineに掲載されたアトピーの論文を紹介する。今日紹介するのは、デンバーにあるNational Jewish Healthという組織からの論文で子供のアトピーのタイプを、バイオプシーではなく、粘着テープを同じ場所に繰り返し用いて、表面から深い層まで順に回収した細胞を用いて皮膚細胞の性質をかなり正確に明らかにできることを示した研究だ。タイトルは「The nonlesional skin surface distinguishes atopic dermatitis with food allergy as a unique endotype(病巣とは別の皮膚の表面の性質から食物アレルギーの合併したアトピー患者さんを合併しないアトピー患者さんから区別できる)」だ。
皮膚科の確定診断というとすぐにバイオプシーを考えてしまうが、、アトピーの子供で、病巣とは離れた場所の皮膚をバイオプシーするのは拒否される確率が当然高い。この研究では、皮膚に貼ってから一定時間後に剥がすと、薄い細胞層が回収できるD-Suame Tape Stripと呼ばれる一種の粘着テープを用いて、皮膚の層を深くまで順番に回収する方法を用いて、それぞれの層に存在する細胞の様々な性質を測定して、アトピー誘発に関わる皮膚の遺伝子について調べている。30回程度貼ったり剥がしたりを繰り返して、順々に深いところにある細胞層を回収できるなら、確かにバイオプシーに代えることができる。子供が対象でも、多くの患者さんで病巣とは無関係な場所で30回もこの操作を繰り返せるということは、今後確実性は劣るが、皮膚の細胞を調べる方法として普及するように感じた。
この研究の最大の目的は、食物抗原に対するアレルギー反応が明確なアトピー(1群)と、この点がはっきりしないアトピー(2群)では、皮膚の構造や性質に質的な差があることを示すことだ。
研究ではまず皮膚からの水分の蒸発を測定し、アトピーの症状が著明な病巣では水分の蒸発では1群、2群とも両者にあまり差がない一方、病巣とは異なる場所では、明らかに食物抗原に対する反応を示す1群のアトピーの患者さんの方が皮膚のバリアーが壊れており、その結果水分の蒸発が高まっていることを明らかにしている。すなわち、皮膚の蒸発を防ぐバリアー機能の低下が、病巣と離れた皮膚で見つかることは、1群の患者さんではアトピーの皮膚病巣ができる前から皮膚のバリアー機能が変化していることを示唆している。
そして、この結果と相応して起こっている細胞の様々な性質の変化を回収した様々な細胞層で比較検討している。結果は明瞭で、水の蒸発促進と並行して、たとえ皮膚のバリアー機能の指標であるフィラグリン分解物の発現が、第15層で低下している。
また病巣以外の領域で、アトピーの指標になる皮膚の緑膿菌の数も上昇し、ケラチンの発現パターンから、未熟で増殖しているケラチン細胞が上昇することも明らかにできた。さらに、やはり食物アレルギーを持つアトピー患者だけで2型免疫反応が活性化され、細胞の転写レベルでも両者を区別できることを明らかにしている。
要するに抗原特異的な食物アレルギーがはっきりした1群のアトピー患者さんでは、炎症巣が起こる前から皮膚のバリアー機能が壊れて、水分の蒸発が高まり、これと並行してフィラグリン分解物レベル、細菌叢、転写、プロテオーム、など様々なレベルの変化が呼応するという結果だ。すなわち、一般のアトピーと食物アレルギーを併発したアトピーとは病気の成り立ちが異なり、後者では皮膚のバリアーが弱いことが先にあって、食物アレルギーが起こり、その上にアトピーの皮膚炎ができるというシナリオになる。したがって早いうちから、皮膚のバリアー機能を診断して、アレルギーを抑えることで、1群のアトピー発症を抑えられる可能性があるという結論だ。
個人的には、粘着テープを用いてバイオプシーに匹敵する検査ができること、そして、病巣ではなく、一見正常にみられる皮膚ですでにこのような変化が始まっていることに最も興味を持った。
早いうちから、皮膚のバリアー機能を診断して、アレルギーを抑えることで、1群のアトピー発症を抑えられる可能性がある。
→皮膚科、古来から観察可能臓器だったせいか、難解な漢字病名が多いです。病態も複雑怪奇。アトピー性皮膚炎と単純に一くくりでは扱えないようです。