つい先日、マウスモデルとはいえ新生児の行動の性差を、ミクログリアの貪食能がテストステロンにより上昇することが主原因で、これにより新たに作られた神経細胞がオスで減るという、少なくとも私にとっては驚くべき論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9859)。
まだまだ信じられないと思っている矢先に、今度はアレルギーのエフェクター細胞であるマスト細胞が発達期の脳内に存在し、この活性化がオスをメス化、メスをオス化するという、さらに驚くべき論文を読んだので、紹介することにした。オハイオ州立大学からの論文で3月18日Scientific Reportsに掲載されており、タイトルは「prenatal Allergen exposure Perturbs Sexual Differentiation and Programs Lifelong Changes in Adult Social and Sexual Behavior (出生前のアレルゲンへの曝露は性的分化を変化させ、生涯にわたる社会的性的行動をプログラムする)」だ。
先日紹介した論文も含め、男女の行動差を作る脳の構造が血液系の細胞で作られるとは、個人的には驚きだが、こんなに論文が続くと、可能性を追求する人たちは意外と多いのかもしれない。このグループもミクログリア細胞がオスで多いことに着目して研究をしていたようだが、これに加えてアレルギーでヒスタミンなどの様々なメディエーターを分泌するマスト細胞がやはりオスで数が多く、しかも活性化されていることに注目し、マスト細胞の活性化が脳に働きかけて、オス型の行動パターンを誘導するという仮説を提唱してきたようだ。
今回の研究はこの延長で、もしマスト細胞の活性化が脳回路を変化させるのなら、妊娠中のアレルギー反応によって、この変化が起こってもいいはずだと、妊娠前に感作したラットの妊娠中期に抗原を注射してアレルギー反応を起こさせ、生後の脳や行動の違いを調べている。
結果は予想通りで、抗原注射で胎児のIgEが上昇し、マスト細胞の数もオスメスを問わず上昇する。ただ、その結果起こるミクログリアの変化はドラマチックで、オスでは遊走が活発なアメーバー型ミクログリアが正常メスレベルに低下し、逆にメスでは正常オスレベルに上昇する。
おそらくこのミクログリアの作用で、視索前野のスパインと呼ばれるシナプス結合が、オスでは低下、メスでは上昇する。さらにこの変化は、特にメスで大人になっても持続する。ただ、この変化は一般的な炎症では決して起こらず、1型アレルギーとマスト細胞の活性化に特有だ。
最後に、この脳の変化が行動の変化につながるか調べており、マウンティングなどオス型の性行動がメスで優位に上昇する。一方、オスの方では少しメス化するが、程度は強くない。面白いのは、マウンティングの相手がメス特異的かどうかを調べると、オスではメスへの特異性が有意に低下する。メスでは逆にメス特異性が上がるが、その程度は低い。
以上が結果で、これをそのまま人間に当てはめてしまうと、妊娠中の花粉症で、子供の行動が中性化するという話になる。これが本当かどうか、人間ではより厳密な疫学調査が必要になると思うが、妊娠期間の長い人間で同じ話が通用するのか、私自身は疑問に感じる。人類は、直立原人の誕生とともに、男女の体格差がなくなり、おそらく一夫一婦制が始まったのではと考えられている。この意味で、もともと中性化の道を辿っており、この結果をあまり深刻に受け止めないほうがいいように思う。一方、アレルギーにしても、袁紹にしても、妊娠時期に経験すると、脳の発達に変化が起こることは確かで、なるべくこのような炎症から身を守ることは是非努めてほしいと思う。
妊娠中ダイエット→胎児飢餓環境適応→生後肥満などなど、既に胎児段階から外界環境情報入力に反応し、生誕後の環境への適応を開始。常に変化する生命です。