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4月7日 ゼブラフィッシュを用いて統合失調症の研究は可能か?(4月4日号Cell掲載論文)

2019年4月7日
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FacebookでSydney Brennerが亡くなったことを知った。ドイツに留学している時と、日本の会議で何回かお会いして、私たちにとっては神のような存在だった。分子生物学の勃興期に大きな業績を挙げた彼が、最後に線虫をモデル動物とした発生遺伝学を確立しようとした過程は、青土社の「はじめに線虫ありき」という本に、Andrew Brownによりドキュメント風に書かれているが、現在大型予算のプロジェクト研究とはどうあるべきかが盛んに議論されている我が国で、この機会に改めて読まれる本ではないかと思う。まだ読んでいない人は、ぜひ読んで、日本の科学の将来を考えるときの参考にしてほしいと思う。

さて、この線虫を用いて、Brennerが知りたかったことの一つは、神経系の発生と構築だったようだ。この本の中に、線虫を用いて全ての神経接合を電子顕微鏡的に全て記述しようとしたことが書かれている。このように、モデル動物を用いる重要なメリットは、一つの分子のとらわれることなく、一つの過程を全て調べ尽くすという方法が取れることだ。そして、クリスパー/Cas9の技術は、この可能性をさらに大きく拡大した。

今日紹介するハーバード大学からの論文は統合失調症と相関しているとしてリストされた130もの遺伝子を一つ一つクリスパー/Cas9でノックアウトしたゼブラフィッシュ株を作成したという研究で4月4日号のCellに掲載された。タイトルは「Phenotypic Landscape of Schizophrenia-Associated Genes Defines Candidates and Their Shared Functions(統合失調症と相関した遺伝子に関わる形質の景観は病気の遺伝子候補とその共通の機能を明確にする)」だ。

今日の論文については、何が行われたのかの紹介はできるが、何か結論を出すのは難しい。さてこれまでの研究で、統合失調症と相関のある遺伝子多型は100を超えており、これほど数が多いとそれぞれがどのように病気の発症に関わるのか因果性を決めることは極めて難しい。また、各遺伝子の機能についてもはっきりとわかっているわけではない。そこで、相関の確認された多型の近くの遺伝子を、ゼブラフィッシュでクリスパー/Cas9を用いて一つ一つ完全にノックアウトして、ノックアウト個体のライブラリーを作成している。驚くことに、ノックアウトした132遺伝子のうち、2つの遺伝子だけが致死的で、あとは発生し、生存することができている。

こうして作成したノックアウト個体ライブラリーについて、1)暗明移行テスト、2)プレパルス抑制、3)tap habituation試験、4)明暗移行テスト、5)熱ストレステスト、などをテストしそれぞれの個体の反応を表にしている。

このような行動テストに加え、普通に泳いでいる時の脳の活動をカルシウム刺激後に上昇するリン酸化ERKの発現で調べるとともに、脳の大きさの変化も測定して、リストにしている。ほぼ半分の遺伝子のノックアウトで、脳の活動の何らかの変化が見つかっている一方、脳の解剖学的構造変化が起こった遺伝子変異は12%に止まっていた。

このようにして遺伝子ノックアウト個体のライブラリー、遺伝子変化による行動変化、脳活動の変化、脳構造の変化がリストされた大きなデータベースが完成したことになる。もちろん調べる項目を増やせば、このデータベースはいくらでも成長できる。

そしてこのデータベースから、例えばtcf4変異では視覚領域が変化し、その結果動く虫を捕獲して食べることができなくなり、実際生きた餌をほとんど食べなくなるといった遺伝子変異の因果的影響を記述することができるようになる。

あとは、それぞれの遺伝子について存在するこのようなシナリオを集めて、それを人間へと外挿することで、統合失調症を理解することだが、残念ながらそう簡単ではないような印象を持つ。おそらく何か機械学習のような方法を組み合わせることが必要ではないかと感じる。

それでも、何もなしに議論はできない。ともかく出来ることは着実に準備してみようと、作業を厭わず大変なデータベースを作成し、公開したことに脱帽する。ぜひ我が国の研究者からも、このデータベースを使うオリジナルなアイデアが生まれることを願う。

しかしこのような研究を読むと、Brennerにより植えつけられた研究の心が今も生きていることを感じる。