9月20日:欧州での民族大移動をゲノムから調べる(Nature Communicaton9月号掲載論文)
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9月20日:欧州での民族大移動をゲノムから調べる(Nature Communicaton9月号掲載論文)

2018年9月20日
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恐らく高校生の時だと思うが、西ローマ帝国の没落と同時に、多くの民俗がヨーロッパに相次いで移動し現在のヨーロッパ人が形成される事を学んだ。この最初がゲルマン人の移動で、ゴート、フランク、ブルグンド、ロンゴバルドなどの王国が形成される。私達がアングロサクソンと呼ぶのはこの系統だ。一方、それ以前の住民には当然ローマ帝国を代表する南の人たちの系統が存在し、私達がラテン系と呼んでいる人たちの基盤と考えればいいような気がする(この考えは検証したわけではなく私が勝手に想像していると理解してほしい)。この時代のことは、ローマ人による記録と、あとはさまざまな遺物から検証され、私たちが高校の世界史で習うストーリが出来上がっている。

今日紹介する米国ストーニーブルック大学、イタリアフィレンツェ大学、ドイツマックスプランク人類史研究所が合同で発表した論文は、ロンゴバルド王国がハンガリーから北イタリアにかけて形成される過程での民族交流の後を、ロンゴバルド王国の身分の高い戦士とその家族が代々葬られた墓から出土した遺骨のDNAを解読することで明らかにしようとした研究で、9月12日Nature Communicationsに掲載された。タイトルは「Understanding 6th-century barbarian social organization and migration through paleogenomics (6世紀の蛮族社会構成と移動を考古ゲノミックスから理解する)だ。

これまで古代人のゲノム解析の論文を多く読んで来たが、この研究は考古学的な検証とゲノム解析の両方を丹念に関連付けたより総合的な考古学の論文で、読んでいて高校の歴史を思い出すとともに、この墓に葬られている家族の有様がありありと浮かんでくる大変興味深い論文だった。

論文のイントロダクションはゲノム科学の論文というより、ロンゴバルド王国の歴史学の話が中心で、これによるとロンゴバルド王国は現在の東ヨーロッパにあるローマ統治地区パンノニアのゲルマン人が北イタリアへと移動しながら築いた王国だが、この研究ではハンガリーのソラッドと北イタリアのトリノに近いコルレーニョの2箇所に残る大きな墳墓を考古学的、ゲノム科学的に調べている。

考古学的には、一緒に埋葬されている遺物から、家族の中心人物と、言って見れば庶子のような家族の中でもあまり尊重されていない一族は、少し離れて埋葬されている。ただ、ゲノム解析から、それぞれが一つの家族であることは確認される。 同時に、ゲノムからこの序列が、ゲルマン系のゲノムを引き継いでいる割合で概ね決められていることもわかる。すなわち、ゲルマン民族が、ラテン系のローマ人を征服し、その過程でラテン系の女性も家族になって行く。同じ家族でも、ラテン系の血を多く受け継ぐ家族は差別されていることが、副葬品の有無などでわかる。ラテン系の女性の中には副葬品と共に葬られている例外も存在する(より愛されたのか?;私の勝手な想像)。

そして家族構成とそのゲノムを調べると、ソラッドでは中心部に埋葬される男性のほとんどがゲルマン系で、ラテン系は女性に多いことから、まさに征服過程をそのまま反映している。一方コルレーニョになると、よりゲノム的には多様性が増している。面白いことに、アイソトープを使ってその土地で一生を過ごしたのか、他の土地からやってきたのかを調べると、ソラッドではラテン系もゲルマン系もゲノムに関わらずこの土地で育ったのではなく移動してきたことがわかる。すなわち、ゲルマンとラテンが何処かで家族を形成し、ソラッドに移動してきたことを示している。一方コルレーニョでは、ラテン系のゲノムを持つメンバーはほとんどコルレーニョで育っている。またゲルマン系も、世代が進むとコルレーニョ育ちであることが確認できる。すなわち、王国が形成されるときにはすでに定着が進んでいたことが分かる。

私なりにだいぶ脚色してしまったがデータをまとめるとこんなところだ。考古学、アイソトープによる生活圏測定、そしてゲノムの各解析が見事に一致したエキサイティングな研究だと思う。そして何よりも、有史時代でも、ゲノムも加えた総合的研究が今後ますます重要であることがわかる。言ってみれば異物からあとは想像の世界に入るのではなく、より厳密な考証ができることを意味する。その意味で、これまで考古学、歴史学と称されてきた学問で人文・自然科学の融合が進むように思える。ぜひ日本の歴史学もこのような文理融合した総合的なものへと変わってほしいと思う。。
カテゴリ:論文ウォッチ