9月15日:自然免疫に関わるTLR5を用いるアルツハイマー病治療戦略(8月28日Journal of Experimental Medicineオンライン掲載論文)
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9月15日:自然免疫に関わるTLR5を用いるアルツハイマー病治療戦略(8月28日Journal of Experimental Medicineオンライン掲載論文)

2018年9月15日
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アルツハイマー病ではアミロイド沈着による神経変性が主病変であることは間違いないが、アミロイドが沈着するまでの長い過程に炎症反応が関わっていることを示唆する報告が最近は多く見られる。とするとミクログリアを介する自然免疫に関わるメカニズムが当然関与していると予想できる。実際、TLR4受容体ノックアウトマウスでは、アミロイドの除去が低下して沈着が進むことが知られている。

今日紹介するフロリダ大学からの論文は、アルツハイマー病(AD)に自然免疫系が関わることを前提として、TLRを介してアルツハイマー病の進行を止める可能性を探索した論文でJournal of Experimental Medicine にオンライン出版された。タイトルは「TLR5 decoy receptor as a novel anti-amyloid therapeutic for Alzheimer’s disease(TLR5デコイ受容体はアルツハイマー病の新しい抗アミロイド治療に利用できる)」だ。

この研究の実験部分はほとんどマウスでアミロイドが沈着するADモデルを使っているが、あくまでもヒトへの応用を考えて、ヒトで調べられることはしっかりやろうというスタンスで研究を進めている。

まず、人ADでアミロイド沈着が多い皮質と、沈着が少ない小脳から組織を採取、TLRとその下流シグナルを調べると、アミロイド沈着が始まった場所では確かに様々なTLRの発現とそのシグナルが高まっているのが観察された。

そこで、それぞれのTLRの細胞外ドメイン(デコイ受容体)を脳内で発現するアデノ随伴ウイルスをADモデルマウスの脳に投与する実験を行い、TLR5を発現させた時に、不溶性のアミロイドの蓄積が強く押さえられることを発見する。次に、ウイルスではなく、TLR5に抗体のFc部分を結合させたタンパク質を直接脳に投与する実験を行い、TLR5の細胞外ドメイばアミロイド沈着が押さえられることを確認する。またこれと並行して、ミクログリアの数や活性が低下することも示している。

次にTLR5のデコイ受容体の作用メカニズムを様々な方法で調べ、
1)驚くことに、デコイTLR5は直接不溶性のアミロイドC末部分と強く結合すること。
2)不溶性のアミロイドはミクログリアのTLR5を直接活性化し炎症反応を誘導するとと同時に、この刺激によりミクログリアが細胞死に陥り、アミロイドの除去が低下する。デコイ受容体は過程を抑制し、炎症性サイトカインの分泌を押さえ、ミクログリアの細胞死を止めることで、アミロイド除去を高めADの進行を遅らせることを明らかにしている。

また次に、TLR5にこのような働きがあるなら、ヒトでもTLR5の変異で同じようなことが起こっているのではと考え、これまで蓄積されたGWASデータからTLR5のバリアントを抜き出し、ADとの相関を調べ直すと、期待通りTLR5細胞外ドメインが分泌される変異のみADリスクが低下することを示し、デコイ型受容体がヒトでも効果がある可能性を示している。

話は以上で、私自身は将来の介入手段として結構有望ではないかと感じた。ただ、全身投与により他の影響が出る可能性もあるので、できれば負担の少ない脳内投与の方法が開発される必要があると思う。しかし、バクテリアの鞭毛に反応するTLR5が糸状になったアミロイドに反応してミクログリアを活性化するという話はなかなか面白いのではないだろうか。
カテゴリ:論文ウォッチ