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4月6日:脳の統合データベース(Natureオンライン版掲載)

2014年4月6日
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今日紹介する話は一般の人には理解してもらいにくいと思ったが、危機感を持ったので取り上げる事にした。   脳機能、特にヒトの脳機能の解明は21世紀の中心課題だ。その結果各国もこぞって脳研究に巨額の助成金を提供している。私はこの分野は素人だが、1年間論文を読んで来て、ことヒトの脳研究となるとアメリカの力を思い知らされる事が多い。今日紹介する2編の論文からもこの底力を窺い知れる。ともにNatureオンライン版に掲載されたばかりで、両方ともワシントンのアレン脳研究所の研究だ。一つは脳内の神経ネットワークのデータベースを作るための研究で「A mesoscale connectome of the mouse brain(マウス脳の中規模の神経連結マップ)」、もう一方は「Transcriptional landscape of the prenatal human brain(出生前ヒト胎児脳の転写全像)」だ。最初の仕事では、脳の各領域間を結合している神経軸索を可視化する方法と、深い組織を詳しく調べる事の出来る2光子顕微鏡を使って、マウス脳細胞間の連結を調べたと言う研究だ。技術はどの研究所でも使っているが、アレン研究所はこの研究を手始めにいくつかの完全な配線図を完成させるための技術や情報処理を進めると言うはっきりとした長期的視野がある。まだまだ入り口だが、立体的配線図が既に示され、将来何が可能になるかについても示してくれている。もう一つの研究は、胎児期の脳の各領域での遺伝子発現をいつでも調べる事が出来るデータベースを作成する目標を立て、マイクロアレイによる各部位の網羅的遺伝子発現解析、in situ hybridizationによる個別の遺伝子解析、組織染色、MRIを統合して、自分が調べたい領域に発現している遺伝子を調べることが出来るようにしている。これもまだスタート段階にあるデータベースだが、脳発生過程でこれまで議論されて来た幾つかの問題について新しいソフトウエアを用いた解析を行い、現段階のデータベースでも様々な疑問に答えられる事を示している。特に自閉症や複雑な精神疾患に関する新しい発見があった時、この様なデータベースがあることが極めて重要になる。自閉症分野などではすぐにこのデータベースから新しい研究が生まれる様な気がした。専門的になるので論文の紹介はこの程度にするが、この論文を読んでいてアメリカの脳研究、そしてアレン研究所恐るべしという思いを強くいだいた。ガリレオの時代から実際の実験が難しい時、数理科学の存在が必要になる。ただ、ゲノムや脳ネットワークでは法則に基づいた数理は使えない。そのため、先ず長期的視野で計画された統合的なデータベースが必要になる。この論文で私はアレン研究所の存在を初めて知ったが、この様なデータベース作成を重点的に行っている研究である事を実感した。データベースは巨額のお金が必要だ。従って誰もが対話できる構造を持ったフレンドリーなデータベースを完成させるため科学者が一致して支える必要があり、足の引っ張り合いをやっているようではまともなデータベースは出来ない。我が国でも統合データベースプロジェクトと言うのがあったと記憶しているが、ここまで統合的なプロジェクトは進んでいるのだろうか?ゲノムもそうだが、これからこの分野には数理を研究する人が必要だ。しかし、肝心のデータが揃ってないと、この様な数理の人材が育つはずはない。一度我が国のデータベースの問題点について調べてみたいと思った。

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