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5月31日:タウ蛋白もプリオンになる(Neuron誌6月号掲載論文)

2014年5月31日
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タウ蛋白、プリオンと言われてもよくわからないと言う人は多いだろう。先ずタウ蛋白は伸びた神経の構造を保つ微小管形成に必須の分子だ。ただ、アルツハイマー病や幾つかの神経変性疾患は、このタウ蛋白が細胞内で集まって沈殿するために起こることが知られている。プリオンは狂牛病の原因として知られているが、この本態は細菌やビールスとは全く異なり、実は細胞間シグナル伝達に関わると考えられる普通の分子PrPに由来する異常蛋白そのものだ。タンパク質が機能するためには正確に一定の3次元構造へと折り畳まれる必要がある。ただ、どんなことも失敗がある。折り畳みに失敗したタンパク質も造られるが、通常細胞内で処理される。ただ幾つかのタンパク質では処理できずに細胞内に蓄積する場合があり、これが様々な神経変性疾患を引き起こす。プリオンも、PrP蛋白がうまく折り畳まれなかった一種廃棄物と言える。プリオンが問題なのは、うまく折り畳まれなかった失敗作プリオンが、正常のPrPの折り畳み過程に影響して、失敗作プリオンにしてしまう点だ。細胞内で失敗作が失敗作を増やして行く。更に、シナプスを介して拡がる。このように感染力があるにもかかわらず遺伝子は全く必要ない。幸いこの様な恐ろしい力を持つ蛋白はこれまでプリオンと、酵母に存在する蛋白の2種類しか知られていなかった。今日紹介するワシントン大学からの論文は、タウ蛋白もプリオンと同じように感染し、拡がることを示した研究で6月号Neuron誌に掲載された。タイトルは「Distinct Tau prion strains propagate in cells and mice and define different Tauopathies(タウ蛋白から異なる形のプリオンが造られ、細胞やマウスの中で増えてタウ蛋白症を引き起こす)」だ。この研究のポイントは、タウ蛋白が感染性のプリオンへと変化したかどうかを調べるための検出系細胞を確立したことだ。この細胞に折り畳みに失敗したプリオン化タウ蛋白を導入すると、細胞内で発現している蛍光標識したタウ蛋白が塊を形成させるので、検出が可能になる。驚くべきことに、プリオン化タウ蛋白には様々な立体構造があり、細胞内で正常タウを自分と同じ形をしたプリオン化タウに変える。さらに、形の違うプリオン化タウごとに引き起こされる異常も違っていると言う結果だ。もちろん、マウスからマウスへとこのプリオン化タウを伝搬できることなど、タウ蛋白からプリオンと言える全ての性質を持つプリオン化タウが出来ることを示している。専門でないので正確に評価できないが、著者等はこの研究がタウ蛋白がプリオン化することを示した最初の研究だと主張している。重要なことは、タウ蛋白蓄積によるアルツハイマー病の細胞から抽出した蛋白をこの検出系に加えると、同じ構造を増殖させられることだ。もし患者ごとにプリオン化タウ蛋白の構造が違うとしても、それを増やして調べることが出来る。感染性物質の研究はそれを増殖させる実験系が必須だ。この様なプリオン化蛋白は細胞から細胞へと伝播することが知られているが、この過程を特異的な抗体で抑制できるかもしれない。既に紹介したように、抗体を脳の中に移行させる技術も開発されている。タウ蛋白がプリオン化することは恐ろしいことだが、同時に新しい光が見える研究だ。

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