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11月27日:マウスY染色体から見える男女の競争(11月6日Cell誌掲載論文)

2014年11月27日

論文を読んでいると、知識はあると思っていたのに何も知らなかったことに気づき驚く。今日紹介するマサチューセッツ工科大学から発表されたマウスY染色体の話もその典型だ。これまでY染色体はなんとなく消え去る運命にあると思っていた。構造上ヘテロクロマチンと呼ばれる凝縮した染色体構造をとり、存在する遺伝子も少なく、組み換えが起こらない。このような構造から見て、なくなってもいい染色体と思っていた。しかしこのマウスY染色体塩基配列の完全解読の論文を読んで認識が変わった。タイトルは「Sequencing the mouse Y chromosome reveals convergent gene acquisition and amplifyication on both sex chromosomes(マウスY染色体全塩基配列から、両性染色体での遺伝子の収斂的獲得と増幅が明らかになった)」で、11月6日号のCellに掲載されている。もともとY染色体は繰り返し構造が多く、完全に塩基配列を解読することができていない。このグループはY染色体を完全にカバーするライブラリーを作成して99%まで完全と言える解読を完成させている。完全と言えるまで一人になってもやり遂げるという強い意志を感じる仕事だ。その結果、常識は覆された。まずマウスY染色体はヒトY染色体とは違い凝縮が全くないユークロマチンで、数多くの遺伝子が存在している。たとえヒトやサルでY染色体が消え去る運命にあっても、マウスでは全く様相を異にする。次に、性染色体が常染色体から分離した時に存在していた最初の頃の遺伝子をほとんど失っており、この部分は全体の2.2%しかない。言い換えるとX染色体から大きく分化している。驚くことに、古い遺伝子を捨て去った後の残りの98%にはマウス独自の新しく獲得された遺伝子で満たされている。さらに、この新しい遺伝子8種類のうち、3種類(Sly, Srsy, Ssty)で、それぞれ126,197,306と凄まじい増幅が起こっていることだ。また、これらの遺伝子の相同体がX染色体にもあり、これらにも増幅がみられる。重要なのは、X染色体上にある相同遺伝子も精子に発現している点だ。増幅は、XYの組み換えで起こったとは考えられない。すなわちX、Y独立して増幅を行っているようだ。なぜこんなことが起こるのかを解明するには、もう少し様々な種を比べる必要があるだろう。面白いことに、Y染色体が短くなってこれら遺伝子の量が減ったマウスでは、不妊になる代わりに性比がメスに偏ることが知られている。ここから想像を逞しくすると、X、Y染色体がメス、オスの比を自分に有利にしようと軍拡競争を行っているように思える。Yはオスを増やすために3種類の遺伝子をできる限り増やそうとする。一方、Xも負けじと相同遺伝子を増幅しメスの割合を増やそうとする。この競争の結果Y染色体は消え去るどころか、ますます存在感のある染色体へと発展する。逆に人間はこの軍拡競争はやめて男女の平和共存を進めてきたようだ。Y染色体の存在感が薄れて女性化するのは人類が選んだ戻ることのできない道だ。競争か共存のどちらが種の繁栄をもたらすのか、見届けられないことははっきりしているが面白い。大変勉強になる論文だった。


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