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5月28日:一本のmRNAの翻訳を可視化する(5月5日号 Cell掲載論文)

2016年5月28日
   DNAからmRNAが転写され、mRNA上を結合したリボゾームが動きながら、tRNAが運んでくるアミノ酸を結合させ、タンパク質が作られることは、誰もが知っていることで、教科書や一般向けの本にも一本のmRNAに結合したリボゾーム上でペプチドが出来る様が描かれている。この絵はしかし、様々な結果を総合して想像して描かれたもので、実際の細胞の中で一本のmRNAからペプチドが翻訳される様子を連続的に見た人は誰もいない。
   それを可能にした研究が今日紹介するオランダ・科学芸術アカデミー研究所からの論文で5月5日号のCellに掲載された。同じ号に、ほぼ同じ内容の論文がハーバード大学から発表されているが、ここではオランダからの論文を紹介する。タイトルは「Dynamics of translation of single mRNA molecule in vivo (細胞内での一本のmRNA 分子の翻訳の動態)」だ。
   この技術の基盤になっているのが2014年11月2日にこのホームページで紹介したSunTag法という技術で(http://aasj.jp/news/watch/2368)、普通は細胞の外で働く抗体を、細胞の中で働くようにして、細胞内の標識分子(SunTag)に反応させる技術だ。
  研究ではこのSunTag認識抗体遺伝子と蛍光タンパク遺伝子を結合させたキメラ遺伝子と、SunTag配列を5’端に組み込んだ遺伝子を導入した細胞を用意し、蛍光顕微鏡で観察している。mRNAは5’端から翻訳されるため、このタンパク質が翻訳される時、まずSunTagから翻訳されペプチドは伸びていく。したがって、翻訳が始まった瞬間から成長するタンパク質を一分子レベルで捉えることができる。ただこれだけだと、細胞内にある全てのSunTagが染まってしまうので、翻訳されている途中のタンパク質を区別する必要がある。このため、翻訳するmRNAの3’端にRNA結合分子PP7が結合する配列を組み込んでおく。SunTag認識抗体と異なるカラーの蛍光タンパクで標識したPP7を同じ細胞で発現させると、mRNAの方を可視化することができる。すなわち、SunTagを認識する抗体と、mRNAを認識するPP7が同じ場所に存在する場合、翻訳が現在進行中と結論している。
  ただ、この仕掛けだけだと、mRNAが細胞内で動き回るため、ビデオ撮影が難しい。これを克服するため、蛍光標識したPP7に細胞膜にアンカーする配列を加えて、mRNAを可視化するとともに細胞膜に引き止めて動きを制限する仕掛けも加えている。こうしてようやく、一本のmRNA上で翻訳を開始してタンパク質が翻訳され、完成するとmRNAから離れていく様子をビデオ撮影することができるようになっている。
   この一本のmRNA上での翻訳をモニターする技術を使って、ほぼ70%のmRNAで転写が進んでいること、また一本のmRNAに10−25個のリボゾームが結合していることを、一本のmRNA上のSunTagの数から割り出している。
  経時的にモニターできると翻訳速度も測ることができ、リボゾームが1秒間に3コドンずつ動きながら翻訳を行っていること示している。他にも、mRNAに傷があると停止することや、ストレスでリボゾームのmRNA上の動きが遅くなる時、全てが同じようにスローダウンするのではなく、一部のリボゾームの動きだけが遅くなるといった、まったく新しい事実を明らかにしている。他にも、様々な実験を行い、翻訳についての疑問に答えているが、紹介は省く。
  すぐに教科書の図になる面白い研究だと感心した。またSunTag技術は他にも様々な目的で使われ始めており、細胞内の分子を見たり、操作する技術として用途は拡大するだろう。しかし我が国も一分子の動態の観察では高いレベルにあったと思うが、最近の状況はどうなのか少し気になった。

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