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11月20日:先入観にとらわれないCRISPR/Cas9の利用(Natureオンライン版掲載論文)

2016年11月20日
    CRISPR/Cas9は遺伝子編集と名付けられているが、編集というには、自由に中身を変更することが必要だ。ところが、今の所この技術を使って中身を変化させる、すなわち特定の場所に他の遺伝子配列を導入することは簡単ではなかった。
   今年の5月、この技術を用いて遺伝子ノックインが難しい原因を、Cas9が相同組み換え中にもう一度遺伝子を切断するからではないかと考え、用いるオリゴヌクレオチドを工夫して正確な遺伝子置換ができることを報告したロックフェラー大学からの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/5208)。ただ正確とはいえ、遺伝子置換の効率から見ると低く、この技術を活かしたとは言い難い結果だった。
   この研究からわかるのは、ほとんどの人がノックインには相同組み換えが必要だと考えてしまうことだ。これに対し、今日紹介するソーク研究所からの論文は、ノックインには相同組み換えを必要とする考え自体が間違っているのではないかと条件を見直した研究でNatureオンライン版に掲載されている。Joan-Carlosの研究室からで、筆頭著者の鈴木さんもそうだが、多くの日本人が彼の研究所で働いているのに驚いた。タイトルは「In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology-independent targeted integration(相同性に基づかない遺伝子ノックインにより生体内でCRISPR/Cas9による遺伝子編集が可能になる)」だ。
   この研究ではまず、緑の蛍光を発するGFPを赤の蛍光を発するCherryで置き換えるモデル実験系で、置き換える遺伝子が、GFPに相同な遺伝子を持つ場合と持たない場合で効率を比べている。遺伝子にdouble strand breakが入ってからの修復には断端部が結合するend-joiningと相同組み換えが働くが、導入する方の遺伝子に相同部分がないと、end-joiningになる。様々なコンストラクトを試しているが、修復メカニズムについてしっかりとした知識の上に研究が組み立てられた実験だ。CRISPRを単純な方法としてしか理解しない研究者には生まれない発想のいい研究だ。このことは、ノックインする遺伝子にもCas9の標的配列を組み込んでいることからもよくわかる。
   結果はこれまでの先入観を覆し、導入する遺伝子が標的遺伝子と相同な配列を持たない場合の方が高い効率で、しかも正確にノックインが可能になっている。End-joiningには欠失や変異が多いと考えていたが、ノックインするだけなら気にする必要はないという結果だ。
   この研究のハイライトは相同組み換えを用いないことが高効率のノックインの条件であることを示した点に尽きる。後は、この結果に基づいて、増殖が止まった神経細胞でも遺伝子置換を高効率で誘導できること、そして最後に網膜色素変性症のモデルラットを、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて遺伝子置換を試み、遺伝子導入した眼球のみ視力が回復することを示している。
   これだけでも十分だが、今度は静脈注射による遺伝子導入で、筋肉、心筋や肝臓細胞を標的にする遺伝子編集が可能であることを示している。実際、5−10%細胞で遺伝子置換が起こっており、臨床的に効果が期待できるレベルだ。たしかに遺伝子挿入や欠失も起こっているが、導入する遺伝子にのりしろが十分あれば問題にならないだろう。
   この研究は、多くの遺伝子疾患に対する遺伝子編集の応用が現実に近づいたことを示した重要な貢献だ。早く臨床応用されることを多くの遺伝病の患者さんが期待している。

  1. 竹田潤二 より:

    意外に簡単な手法で、ノックイン効率が上がるんですよね。
    断端があるダブルストランドDNAを細胞外から導入しても、そんなにノックインの効率は高くないはずです。核内でしかもターゲットゲノムの近傍で断端のあるダブルストランドDNAをCRISPR/Cas9で産生する事が、効率の良いノックインを達成できるコツだと理解しています。

    1. nishikawa より:

      竹田さん。実は私も不思議です。ただ、一本のゲノムに対して、かなりのプラスミドが導入できるのと、Cas9とガイドがなぜかうまい具合に核内濃縮を助けてくれるのかもしれません。もちろん、理屈はわかりませんが、やってみるという気持ちが成功に導いたように思います。

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