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1月17日:翻訳開始の狂いがガンを誘導する(Natureオンライン版掲載論文)

2017年1月17日
     ガンについてゲノムだけでなく、mRNA,タンパク質、エピゲノムなど総合的なデータベースが構築されつつある。これにより明らかになったことのひとつが、多くのガンでmRNAとタンパク質の発現が一致しないことが明らかになり、ガン遺伝子の発現が翻訳調節プログラムを変化させる可能性が示唆されている。
   今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、山中4因子の一つSox2が、これを発現している皮膚ガンや肺ガンの翻訳プログラムを狂わせ、発がんに関わるのではという可能性を調べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Translation from unconventionall 5’ start sites drives tumour initiation (普通でない5’非翻訳領域からの翻訳開始が腫瘍の発生を誘導する)」だ。
   この論文は皮膚発生や発ガン研究の第一人者フックスの研究所からで、おそらく皮膚ガンだけでなく、肺がんや、喉頭がんなどの扁平上皮ガン共通に発現し、またESやiPSの多能性維持に必須のSox2自体の機能について調べていたと思う。研究を進めるうちにSox2を発現する基底細胞ではmRNAからタンパク質への翻訳スピードが一般的に低下する一方、リボゾームに結合しているmRNA領域の配列からガンが持つストレス抵抗性に関わる様々な遺伝子の翻訳が選択的に維持されることがわかった。
   翻訳が全般的に低下している中で、発ガンに関わる遺伝子の翻訳が選択的に上昇する原因をさらに探索すると、このようなタンパク質では翻訳開始が通常のAUGサイトより上流へシフトすることが翻訳を構造的に安定化させ、これに呼応して合成されるタンパク質の長さが多様化することが明らかになる。不思議なことに、この5’ UTRへのシフトを示すタンパク質の多くが発ガンに関わることから、扁平上皮ガンではSox2の発現が前癌状態を形成していると結論している。
   次に翻訳の5’UTRへのシフトのメカニズムを明らかにするため、750種類のsiRNAを胎児の羊水から発生中の皮膚細胞に導入するという大変な探索実験を行い、Sox2を発現した細胞では、通常の翻訳開始に関わるEif2αを核にする分子セットの活性が低下し、代わりにEif2Aを核にするセットの活性が高まることが、翻訳全般が低下する中で、一部のmRNAの翻訳が上昇する原因になっていることを明らかにした。
   最後にSILAC法(以前の記事参照:http://aasj.jp/news/watch/827)を用いて、Eif2αからEif2Aへのシフトにより、ガンに直接関わるRASやKi67分子の翻訳が選択的に高まることを示し、Sox2発現、全般的翻訳低下、ガンに関わる分子の選択的翻訳増強、そして発ガンの一連の過程の分子メカニズムについてのシナリオを完成させている。
   特異の皮膚上皮細胞操作技術に加えて、ribosome protected sequencingからSILACに至るまで、最先端の解析手法を用いて、他を寄せ付けない研究といえる。とはいえ、ちょっと結論を急ぐ感があり、またなぜ扁平上皮ガン共通にSox2が発現する意味についてはわからないまま終わった気がする。そして何より、このシナリオのmRNA選択制、例えばiPSでは同じことが言えるかなど、このシナリオを受け入れる前に知りたいことは多い。

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