今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、クリスパ−/Casとは異なる細菌の免疫システムを探索した論文でScienceにオンライン発表された。タイトルは「Systematic discovery of antiphage defense systems in the microbial pangenome(微生物全ゲノムに存在する抗ファージ防御システムの包括的探索)」だ。
これまで遺伝子探索というと、特定の遺伝子に関連する遺伝子を探すことだが、この研究の探索方法は面白い。クリスパ−/Casの例から細菌の防御システムは特定セットの遺伝子が組み合わさってできていることが多いことから、これまで知られていない防御システムに関わる分子も、既知の防御分子を利用する可能性が高く、したがって既知の防御分子の近くに存在している可能性があるはずだと考え、既知の防御分子の近くにあるファミリー分子を探索するソフトを開発、このソフトを用いて。これまで知られている細菌防御システムに関わる遺伝子の近くにコードされている遺伝子4500種類の細菌の1億近いタンパク質を探索している。
この探索から全部で335種類の分子がリストされるが、129種類はトランスポゾン、102種類は既知の防御システムで、最終的に新しい防御分子候補として28種類の分子がリストされた。
次にこれらが防御遺伝子としての性質を持っているか調べるため、今回リストした防御システムを全く持たない枯草菌や大腸菌に防御分子クラスターを一個づつ導入し、調べたい防御システムを導入した細菌を様々なウイルスやプラスミドに感染させ、防御システムが感染防御に本当に役立っているか、一個一個調べ、最終的に9種類の新しい防御分子クラスターを特定している。
予想通り、これらのクラスターにはクリスパーやRNAiに関わる既知の分子が、新しい分子ファミリーと一緒に集合しており、この方法の妥当性が証明された。あとは、このうち3種類の防御クラスターについて解析している。
Zoryaと名付けた最初のクラスターは4種類の分子からできており、そのうちの2つは鞭毛のプロトンチャンネルに関わる分子ファミリーに属している。この構造から、おそらくファージが感染した時、膜電位を脱分極させることで、防御に関わるのではと想像している。このクラスターは1829種類の細菌に広く分布しているが、古細菌には存在しない。
次がThoerisと名付けたクラスターで、哺乳動物が自然免疫に用いるTIRドメインを持った分子が存在しており、4%のバクテリアに広く分布している。このクラスターのもう一つの中核分子thsAはNAD結合部位を持ち、分解に関わると考えられ、NADレベルを減らすことでファージに対する防御が行われていると想像している。
最後のDruantiaと名付けたシステムは、DNAヘリカーゼを含んでいるが、他の分子の機能は現在のところ想像がつかず、どのように防御に関わるかは明確ではない。ただ、大腸菌のDNA防御に直接関わるのではと想像しているようだ。
他にもプラスミドに対する抵抗性を付与するWadjetと呼ぶ防御システムも特定している。これはコンデンシンファミリー分子を含むことから、直接DNAに働きかける防御システムではと推論している。
このように、新しい防御システム候補のリストはできたが、メカニズムは今後の研究に残された。それぞれのメカニズムを詳しく解明することで、まったく新しい遺伝子改変システムが生まれるか面白いチャレンジだと思う。