AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 12月9日:免疫治療に使えるガン抗原の多くは、コーディング領域の突然変異ではなく、ノンコーディング領域の異常転写による(12月6日号Science Translational Medicine掲載論文)

12月9日:免疫治療に使えるガン抗原の多くは、コーディング領域の突然変異ではなく、ノンコーディング領域の異常転写による(12月6日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年12月9日
今週は本庶先生のノーベル賞授賞式だが、チェックポイント治療の将来にとって最も重要なのは、ガンに対する免疫の力を誘導するためのガン抗原の特定だろう。チェックポイント治療は一部の人にしか効果がないと問題点を指摘する人もいるが、ガン免疫に使える抗原がはっきりすれば、この問題は解決する。また、個人的には、ガン免疫が突然変異したタンパク質を標的にしているのだとすると、チェックポイント治療は想像以上に効いている印象がある。実際、突然変異の多いメラノーマで抗原を探しても、2万個の変異があっても数個の抗原が見つかる程度だ。したがって、さらに徹底的なガンだけに発現してがん抗原になりうるペプチドを探索する方法の開発が必要になる。

今日紹介するモントリオール大学からの論文はまさにこの課題にチャレンジした論文で12月6日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Noncoding regions are the main source of targetable tumor-specific antigens(利用可能な腫瘍特異的抗原の主要な起源はノンコーディング領域)」だ。

おそらく著者らは、これまでのガン抗原探索がノンコーディング領域が異常な蛋白質を作りうる点を無視していたと最初から考えていたと思う。そして、もしこれらのタンパク質もガン抗原としてリストできれば、チェックポイント治療がこれほど効果を持つことも理解できるのではと考え、ガン抗原をより包括的に探すための新しい方法を開発し、それを検証している。

新しい方法では、ゲノムより先に、発現している遺伝子の中から、ガンでだけ見られる異常タンパク質があるかを調べるところから始めている。この時、正常と異常を区別するレファレンスとして、T細胞の最初の選択に関わる胸腺上皮の発現している遺伝子を用いたのがこの研究の重要な工夫だ。胸腺上皮で発現しているタンパク質を除いた後、がん細胞で発現の高いタンパク質については、ゲノム遺伝子と対応させたうえで、最後はガン細胞のMHCに結合しているペプチドと比較して、実際に抗原として機能できるペプチドを探索している。

この方法で、先ずモデルがん細胞でガン抗原としてがんを拒絶できるペプチドを同定し、それをゲノムと比べると、効果が高い抗原のほとんどがノンコーディング由来である事を発見する。

最後に同じ方法で、バイオプシーサンプルからペプチドを同定する試みを行い、やはりノンコーディング領域由来のガン抗原を発見することに成功している。残念ながら、このペプチドで免疫した結果はまた別の話として示されるのだろうが、2ヶ月あれば突然変異が少ないガンからも候補となるペプチドが見つかるとすると、この分野も着実に進んでいるように思える。特に、ノンコーディング領域の異常転写が抗原を供給しているとすると、ひょっとしたら複数の人にも効果があるワクチンが開発できる可能性すらある。一方、MHC抗原に結合しているペプチドと比べる最後のステップは、まだまだ日常に使うためには敷居は高いが、AIなどでなんとか抗原性を予測する方法の開発へ結びついて欲しいと思う。

ガン免疫は着実に進歩しているのに、この分野でわが国のプレゼンスは極めて低いと思う。この原因は基礎研究だけではなく、わが国の臨床研究の問題でもあるように思う。この原因をしっかり分析し、新しい人材が育たないと、ノーベル賞の後に何も残っていなかったことになってしまう。時間はないと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*