過去記事一覧
AASJホームページ > 2016年 > 11月 > 15日

11月15日:くすぐられると笑ってしまうメカニズム(11月11日号Science掲載論文)

2016年11月15日
SNSシェア
   誰でもお腹を触られるとくすぐったい。くすぐったいと、思わず「やめて」と笑いながら叫んでしまう。誰もが同じように反応するので、不思議と思ったことはなかった。今日紹介するドイツ・フンボルト大学からの論文は、「なぜくすぐられると笑うのか?」「どうして背中はくすぐったくないのか?」「どうして自分で触ってもくすぐったくないのか」という、誰もが当たり前と思っていることに不思議を見出し、実験的に調べた研究で、11月11日号のScienceに掲載された。タイトルは「Neural correlates of ticklishnesss in the rat somatosensory cortex (ラットの脳皮質体知覚野のくすぐったさに対応する神経活動)」だ。筆頭著者Ishiyama(石山?)とあるので、おそらく日本人だろう。
   繰り返すが、誰もが当たり前と思っていることに不思議を見出したことがこの論文の全てだ。用いられている実験手法も、生理学の研究室ならどこでも可能な実験だ。
   まずくすぐると、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と笑ってしまう点に注目し、人間のこの笑いに対応するラットが超音波で発する音(USV)を特定している。そして、お腹をくすぐられるとこのUSVの数が増え、声が大きくなること、そのあとでくすぐった手を追いかけたり、喜んでジャンプしたりして、決して不快に思っていないことを示すなどの特徴的行動を記載している。
   次に、脳の体知覚野に単純な電極を留置して神経興奮を連続的に調べると、USVと同じようなパターンで興奮が記録されること。たとえば、手を休めた時にも興奮が観察でき、またくすぐられた後その手を追いかける時でも興奮が見られることから、単純な感覚刺激に対する興奮でないことを確認している。
  重要なことはこの領域であれば、ほとんどの神経細胞が同じように反応することで、ほぼ全ての神経細胞が興奮している状態であることがわかる。まれに、興奮が抑えられた神経細胞も検出しているが、これが何を意味するのか答えは示されていない。
   私たちも不安な時はくすぐられても喜べない。同じように、ラットを強い光に晒すと、くすぐっても声も出ないし、神経細胞も興奮しない。
   最後に、USVと神経細胞興奮との因果性を調べるため、発声と神経興奮の相関を調べている。くすぐる手を休めている時にもUSVが出るのを利用して、USV発声前後で興奮を調べると、発声前から興奮があり、特にL5aと呼ばれる深さの細胞の興奮により発声する可能性が示唆された。
   最後に、体知覚野の様々な深さに電極を挿入してパルス刺激を与え、期待した通りL5a層にある神経を刺激した時はUSVを100%成功率で誘導できることを示している。
   まとめると、お腹をくすぐられると、体知覚野のL5a層を中心にほとんどの神経が興奮し、この興奮はそのまま笑いの誘導に直結するという結論になる。
   よく考えてみると、体知覚野の感覚興奮がどうリレーされるのか、伝達因子は何かなどはほとんど触れられていない現象論的研究だ。しかし、そんな理屈より、研究テーマ自体が楽しめるので、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と笑いながら読んだ。
カテゴリ:論文ウォッチ
2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930