9月18日:分裂期の転写(9月15日号Science掲載論文)
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9月18日:分裂期の転写(9月15日号Science掲載論文)

2017年9月18日
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転写にはエピジェネティックな調節に加えて、染色体の3D構造まで重要な役割を演じていることがわかると、この様な仕組みが全く望めなくなる分裂期、細胞の分化特性はどう維持されるのか不思議だ。おそらく細胞の転写が完全に止まって、さらに染色体が再構成されてしまうと、分化プログラム維持は難しいはずだ。

この問題に取り組んだのが今日紹介するペンシルバニア大学からの論文で9月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「Mitotic transcription and waves of gene reactivation during mitotic exit(分裂期の転写と、分裂期からの離脱時に見られる数波にわたる遺伝子再活性)」だ。

分裂期には核膜もなく染色体は分離しているので、核を取り出して染色体沈降を用いて全ゲノムレベルで転写を調べることは難しい。代わりにこの研究では5-ethynyluridine(EU)を用いてできたばかりのRNAをラベルし、できたRNAを沈降させる方法を用いている。具体的には、微小管阻害剤ノコダゾールで細胞を分裂期に停止させ、その後ノコダゾールを洗い流して細胞周期を進める。様々な時期にEUで合成されたばかりのRNAを標識、停止期から離脱してG1期へと進む時のEU標識RNAの配列を調べ、1)分裂期の転写の程度、2)分裂期に上昇するRNA、3)分裂期からG1期へと移行する間にどう本来の転写が戻るのか、について調べている。

この方法が信頼できることを確認した上で、分裂期にも正常レベルの5%程度の転写が維持されており、ほぼすべての遺伝子の転写が低いレベルで維持されている。さらに分裂期で上昇する遺伝子も800近く存在することを明らかにしている。KLF4,ATF3,ELF3など重要な転写因子が含まれるが、FISHを用いてこの3種類の遺伝子の転写が分裂期でアクティブであることも示している。納得できるのは、分裂中に高い転写活性があるのが細胞外と関わる分子群である点で、分裂期に上皮層から外れたら大変なことになる。

このあと分裂期から離脱するときに転写がどう正常化するかを、ノコダゾールを洗い流した後異なる時期にEUラベルする実験で調べているが、まず細胞骨格など構造を維持する分子が転写され、その後波状に転写が進んでいくことを示している。

最後に、この研究に利用した肝細胞株のアイデンティティーに必要な肝細胞特異的遺伝子の転写を見ると、低いレベルで分裂期も維持されているが、転写が戻るのは分裂期離脱後の後期になることも分かった。

他にも転写の回復過程が詳しく調べられているが、詳細はいいだろう。実際には、この研究は入り口で、今後転写が維持されるメカニズム、正常のパターン回復とエピジェネティックスや染色体の3D構造の関係などもっと困難な課題が残っている。今後に期待したい研究だ。
カテゴリ:論文ウォッチ