10月20日 私たちは平均5000人の顔を知っている(英国王立協会紀要掲載論文)
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10月20日 私たちは平均5000人の顔を知っている(英国王立協会紀要掲載論文)

2018年10月20日
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脳の進化については結構有名な理論がある。英国の進化学者Robin Dunbarが提唱した、霊長類から現代人まで、グループの大きさと、大脳新皮質の大きさを比べ、両者が比例することを発見した。それに基づいて、私たちホモ・サピエンスの新皮質の能力から、150人以上の友達を持つ事は生理学的に不可能だとするダンバー定数を提唱した。私はペリカンブックのHuman Evolutionを読んだが、言語誕生について示唆に富む本だったと思う。これ以外にも多くの著書が和訳されているので、読んでみると結構面白いと思う人は多いのではないかと思う。

もちろん友達の数だけではなく、様々な高次機能について脳の容量を探ろうとする研究が真面目に行われている。今日紹介する英国ヨーク大学からの論文は、私たちが平均何人の顔を覚えていられるのかを調べた研究で英国王立協会紀要10月号に掲載された。タイトルはズバリ「How may faces do people know? (何人の顔を人々は知っているのか?)」だ。

確かに面白い課題だが、しかし皆が納得できる研究方法はあるのだろうか?その点が最も興味がある。この研究では、いくつかの仮定を置いて私たちが知っていると確信できる顔を定義している。

まず、「顔」と「顔のイメージ」を区別している。すなわち私たちが見知っていると認識しているのが「顔」で、たまたま見かけたのを覚えているのが「顔のイメージ」だ。「顔のイメージ」は時間を置いてみたとき印象が変わるが、「顔」であればどのような見方をしても安定しているので区別できる。また顔と名前が一致する必要はない。というのも名前思い出すのはまた別の脳機能になる。

このように知っている顔を定義した後、脳内に知人として明確なイメージを形成できる顔の数を次のような方法で決定している。

まず、身近な人の顔と、有名人の顔に分けて、それぞれ1時間に思い出せる顔を数える。この時、できるだけ整理して思い出せるように、家族、家族の友達、自分の友達、自分の友達の家族、学校で会う人たち、同僚、隣人、通勤中などなど、さまざまな項目に分かれているシートに名前や、名前がわからなければ別の記述(例えば学校の門衛、あるいは続柄など)を書いてもらう。

有名人についても同じように、思い出しやすいよう政治家、歌手、俳優、ビジネス、スポーツ選手などの項目を前もって指示してあるシートに、名前か、名前がわからなかったら例えば「イニエスタがわからなければ、Jリーグヴィッセル神戸の新しいスペイン選手」など特定して書いてもらう。

この課題で1時間以内に、だいたい平均で身近な人362人、有名人290人がリストされる。ただ、当然ながら名前をあげるスピードは時間に比例して落ちてくる。すなわち、最初はすぐに多くの名前が出てくるが、1時間ごろには時間をかけてようやく一人出てくるといった具合だ。実際、思い出せた時間をプロットすると、時間とともに正比例して数が減る。この右肩下がりの直線を外挿することで、最終的に思い出せる数を理論的に算定でき、これが身近な人で549人、有名人で395人になる。すなわち、このテストで自分でリストに上げることのできる数は両者の和、944人になる。

ただ、実際にははっきり区別できても、思い出せない人も当然存在する。これが、リストできる人の何倍に当たるかを、有名人の顔の違った印象の写真3千人用意し、両方同じ人と認識できた写真の数と、最初の実験で思い出せた人の数を比べ、思い出せなかったが、確かにイメージとして認識していた数が、思い出せた人の4.62倍になると算定している。

あとは、944人に4.6をかけると、4240人になり、だいたい5000人の顔を覚えているという結果を導いている。25人の人についてこれを算定しているが、結構ばらつきは大きく、だいたい知っているか落として数えられるのは1000人から一万人になる。

この数を信じるかどうかは、この方法を認めるかどうかになるが、5000人と信じた方が、問題を指摘するよりずっと面白そうだ。とりあえず、こんな方法を編み出したことに拍手。
カテゴリ:論文ウォッチ