2023年3月、アルツハイマー病は(AD)Tau分子に対する自己免疫ではないかというワシントン大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/21734)。この研究では、Tauopathyが起こるマウスの脳ではおそらくTauや神経細胞由来分子に対するT細胞が浸潤し、これがADの細胞死を誘導していることをマウスモデルで示していた。
今日紹介する論文は同じグループからの論文で、神経細胞を傷害するのは主にCD8T細胞で、脳内ではなく末梢リンパ組織で抗原刺激を受けた後脳内に浸潤して神経細胞を傷害する可能性を示し、少なくともマウスでは抗原特異的免疫反応がAD等のTauopathyに関わっていることをより明確にした研究で、9月3日Nature Neuroscienceにオンライン掲載された。タイトルは「Priming of CD8 + T cells by peripheral dendritic cells exacerbates tau-mediated neurodegeneration(CD8T細胞を末梢の樹状細胞が刺激することでTauによる神経変性を促進する)」だ。
この研究でも変異TauとAPOE4を組み合わせて早期にTauopathyが発症するモデルマウス(TE4)をいている。自己抗原に対する免疫反応だとすると、それを処理して抗原提示する樹状細胞が除去されたマウスでは神経変性が起こりにくいはずだと考え、まず1型樹状細胞cDC1発生に必須のIrf8遺伝子のエンハンサーをノックアウトしてcDC1の欠損したマウス(Δ32マウス)を作成している。期待通りΔ32マウスでcDC1が除去されていることを確認した後、Δ32をTE4と掛け合わせ、Tauopathyによる神経細胞死を抑制できることを示している。このマウスでTauの蓄積を調べると、cDC1がなくても蓄積自体は進んでいるので、Tau蓄積により誘導される免疫系による神経細胞傷害が神経変性の原因と考えている。
次に、この変性に関わる細胞を特定するためsingle cell解析を行い、最終的にTauが蓄積するTE4マウスでは、活性化されたCD8T細胞の脳内への浸潤が見られるが、cDC1が欠損するとこの浸潤が見られなくなることを発見する。ミクログリア反応もTau蓄積で起こるが、cDC1が欠損するとこの反応も抑えられるので、CD8T細胞による細胞傷害がTau蓄積により誘導されることが変性の最も重要な要因であることが示された。
このようにcDC1とCD8T細胞という役者が揃うと最も考えられるのがクロスプレゼンテーションと呼ばれる現象だ。cDC1は外来分子を取り込み通常クラスII MHCを介してCD4T細胞を刺激するが、細胞内で分解されたペプチドの一部はクラスIにロードされCD8キラー細胞を誘導することが知られている。ガン免疫でクラスIIを発現していないガン細胞が樹状細胞により処理されキラー細胞を誘導出来るのもクロスプレゼンテーションのおかげだ。この研究でも実際にクロスプレゼンテーションでCD8細胞が誘導されるか、卵白アルブミンを用いた系で確認したあと、クロスプレゼンテーションが出来なくなるマウスを作成し、Tau蓄積による細胞変性を調べるとCD8T細胞の浸潤が防がれ神経変性が低下する。即ち、Tau蓄積により障害を受けた神経細胞から出てきた分子がcDC1に取り込まれ、クロスプレゼンテーションによって神経障害性のキラーT細胞が誘導され、神経細胞を傷害することで、Tauopathyの進行が促進されると言う可能性が示された。
cDC1は脳内に存在しないためCD8T細胞は脳内とつながるリンパ節で誘導され脳に浸潤すると考えられる。これを確認するため、Tauが蓄積したTE4マウスの脳と連結するリンパ節からCD8T細胞を取り出し、まだTauopathyが進んでいないTE4マウスの脳に注射すると、グリア反応が高まることを確認している。
結果は以上で、2023年の論文と比べると、神経細胞変性を誘導する免疫過程がかなり絞り込まれたと思う。またMHCと結合するペプチド解析も行い、Tau由来ペプチドを始め多くのペプチドを特定しているが、これらがキラー活性を誘導しているかどうか今後の問題になっている。
神経変性疾患に抗原特異的免疫反応が関わる可能性を示す研究が増えてきており、例えば制御性T細胞を用いたADの治療まで進むかもしれない。
