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西川伸一のジャーナルクラブ「中国創薬研究の躍進」のお知らせ

2026年3月4日
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3月10日火曜日19時から、西川伸一のジャーナルクラブを開催します。

今月「中国創薬研究の躍進」というタイトルで、躍進著しい中国科学研究を、特に創薬や医療技術開発の面から探りたいと思っています。アカデミアの研究に限ることで、我が国の研究支援のあり方のヒントも学べるのではと考えています。日中関係が緊張し、中国経済にも影が差しているようですが、アカデミアの科学研究は躍進を続けているように思います。天安門事件前、天津血液研究所の若者たちに講習会をしに行った記憶がありますが、今こそ中国の研究体制から学ぶことは多いと感じています。

例によって開催後Youtube配信を行いますが、直接参加したい方は連絡してください。URLを送ります。

カテゴリ:セミナー情報

3月4日 なんと嗅覚受容体の一つが NK-CAR の活性を高める(2月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年3月4日
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NK細胞もキラーT細胞と同じでガン細胞を傷害するが、特定の抗原に対する特異性があるわけではなく、MHCの低下した細胞やNK細胞が発現するいくつかの受容体と結合する分子に結語してキラー活性を発揮するため、特異性のコントロールは難しい。しかし、MHCに対するGvH反応が起こらないと言う大きな利点もあるため、CAR-Tのようにガンを認識するT細胞受容体を導入して、ガン特異的キラー細胞として使う試みが進んでいる。

今日紹介するイェール大学からの論文は、HER2を認識するキメラ受容体を発現したCAR-NKのガン障害活性を高める遺伝子を、CRISPRスクリーニングして、なんと嗅覚受容体の一つがCAR-NKをスーパーキラーに変身させることを示した面白い論文で、2月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「OR7A10 GPCR engineering boosts CAR-NK therapy against solid tumours(OR7A10 GPCRはCAR-NK細胞の固形腫瘍に対する治療活性をブーストする)」だ。

通常CRISPRスクリーニングでは遺伝子を網羅的にノックアウトして、それによる機能変化を調べるが、この研究ではCRISPRによる活性化スクリーニング、即ちヘルペスウイルスのVP64転写活性化ドメインをCASに結合させ、ガイドによって指定される遺伝子を活性化するスクリーニングを用いている。従って、正常では使われない遺伝子の効果も調べることができる。

このスクリーニングで66種類の機能活性化分子を特定しており、その中には増殖を高めたりする遺伝子など予想できる分子も含まれているが、なんとトップの活性を示した遺伝子の一つが嗅覚受容体の一つ OR7A10 だった。もちろんGPCRとしてシグナルに関わるので、この分子により活性化が起こってもいいが、数ある嗅覚受容体の中でこれだけが活性があるとすると、これを刺激する分子が培養中に存在することになるが、この研究ではこの点についてほとんど何も調べていない。

理由は後回しにしてこの分子をNK-CARに導入、この分子の作用を調べると、グランザイムやパーフォリン、更にはケモカイン受容体など抗ガン活性に関わる分子の発現が上昇する。また、ミトコンドリアの数が上昇するなど、代謝が高まってガン組織での生存力が上昇する。しかも、ガン組織に存在するNK活性を抑える様々な分子の作用を受けにくくなる。

メカニズムはともかく、0R7A10を実際の臨床に使えるかをテストする目的で、キメラ受容体と合体させた遺伝子コンストラクトを造り、これを末梢血から調整したNK細胞に導入して、免疫不全マウスにヒトの固形ガンを移植した後、OR7A10導入CAR-NKを投与すると、直腸ガンモデルでも、乳ガンモデルでも完全にガンを消失させることに成功している。これはOR7A10導入により、末梢血とガン組織へCAR-NK細胞が動員されるからで、しかもNK細胞の増殖自体を変化させる要因を誘導しないことから、安全性も高いことが確認されている。

OR7A10の作用については完全にわかったわけではないが、NK受容体の一つNCR1を過剰発現させるとOR7A10の効果が高まることから、何らかの形でNKキラーシグナル経路と相互作用することで、活性を高めていることがわかる。従って同じコンストラクトをT細胞に導入しても効果がない。

最後に single cell RNA sequencing を用いて単一細胞レベルでOR7A10の効果を調べ、期待通りNK抗ガン活性に関わる様々な遺伝子の発現が上昇していることを示している。

以上が結果で、正常機能にかかわらず分子を探索するクリスパースクリーニングならではの発見で、本当ならNK-CARの可能性を高める予感がする。とは言え、何故OR7A10が活性を示したのかのメカニズムを詳細に調べることで、新しい活性化方法も見つかるかもしれない。面白い研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月3日 転写とクロマチンから海馬の神経新生を測定する(2月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年3月3日
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ほとんどの脳領域で神経は一度造られると新生はほとんど見られないが、海馬の歯状回では活発に神経新生が維持され、造血と同じで高齢者でも一定レベル維持されていることがわかっている。また、アルツハイマー病 (AD) ではこの新生が低下している可能性も指摘されている。しかし、増殖を調べるためのサンプル採取の困難から、人間でもマウスで見られるような活発な新生が起こっているかを直接調べた研究は少ない。

今日紹介するシカゴ大学からの論文は、アルツハマー病や高齢者の海馬を含む多くの海馬凍結サンプルを集め、単一細胞レベルの転写とクロマチンの構造を調べることで細胞新生過程を定義し、人間の海馬細胞の新生とその異常を調べた研究で、2月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Human hippocampal neurogenesis in adulthood, ageing and Alzheimer’s disease(成人、老人、さらにアルツハイマー病のヒトの海馬の神経新生)」だ。

細胞増殖の有無の確定は、DNA合成や細胞分裂の特定だが、増殖から分化までの遺伝子発現の変化を追いかけることでも新生状態を推察することができる。これまで多くの研究は単一細胞レベルのmRNA発現を元にこの作業を行っているが、これに単一細胞レベルの Atac-seq を組み合わせて、分化に伴う染色体構造の変化を加えて、より明快に分化状態を定義したのがこの研究の特徴になる。

これにより、完全に分化した神経、グリア細胞に加えて、海馬ではかなりの数の細胞が、グリアと神経細胞に分化できる神経幹細胞と、それに続く神経芽細胞、そして神経への分化が確定した未熟神経細胞を特定できる。直接増殖を示すマーカーがあるわけではないが、発現している分子の重なり合いから調べる分化軌跡の追跡から、成人の海馬でも明確に多能性幹細胞から神経細胞への分化が進んでいることが確認された。

Atac-seq を用いると、このような分化に関わる遺伝子領域はより明確にそれぞれのステージを特定することが出来、また分化の軌跡を追跡することができる。即ち、転写後の様々な修飾が加わるRNA発現よりは安定的に分化様態を特定できる。

次に、健康な高齢者について同じように調べると、成人と同じように神経幹細胞、神経芽細胞、そして未熟神経細胞を明確に認めることから、海馬での細胞新生が高齢になっても起こっていることを確認している。次に AD についてみると、驚くことに神経幹細胞の比率(絶対数ではない)は増加する一方、神経芽細胞や未熟神経細胞の数が強く抑制されていることがわかった。これだけで神経幹細胞新生が起こっているかを決められないが、このステージでは正常高齢者と AD の差はほとんどない。しかし、特にクロマチン構造から推定できる各ステージ維持に重要な遺伝子発現調節領域では、AD の神経芽細胞、未熟神経細胞で強く抑制されている事が明らかになった。異常のことから、分化の始まった時点からの神経新生が AD では抑制されている事がわかる。この遺伝子発現調節に関わる遺伝子を見ると、神経幹細胞に関わる RORB や ZNF98 などが上昇する一方、神経芽細胞や未熟神経細胞に関わる転写因子は AD で抑制されている事がわかる。

この研究では、認知機能を維持しているスーパー老人についても調べており、AD とは真逆の遺伝子発現、即ち若々しい遺伝子発現が維持できていること、特に神経芽細胞や未熟神経細胞の維持に関わる遺伝子発現が正常以上に維持されていることも示している。面白いのは神経幹細胞に関わる遺伝子発現は、明確に老化が見られることから、スーパー老人は神経幹細胞の新生では老化が見られるが、代謝やシナプス結合などの遺伝子発現がしっかり維持できていることがわかった。

実際には多くの遺伝子を調べた結果をかなり単純化して紹介した。全て現象論で、何故老化するのか、なぜ AD で分化異常が起こるのかなどは全くわからない。また、結果は想像通りで、健康な老化、AD 、そしてスーパー老人では遺伝子発現と細胞新生に明確な差があることはわかった。これをベースに、様々な研究が行われることになるが、そのためには脳の標本を集めることが最も重要な課題になると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月2日 夜行マウスを昼型に変えられるか?(2月26日 Science 掲載論文)

2026年3月2日
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哺乳動物は元々夜行性だったと言われている。と言うのも恐竜の支配する地球上では捕食者から隠れて行動することが重要で、太陽による熱が行動に必要な恐竜の活動しない夜が最も安全な行動時間だった。幸い恐竜が絶滅し哺乳動物の天下になると、昼に行動する危険性が減る。我々霊長類とマウスなどの齧歯類は約7000万年前、即ち恐竜絶滅直後に始まったと言われているが、齧歯類のほとんどはそのまま夜行性を維持し、一方で霊長類への進化では昼行性が獲得される。

地球上の昼夜の変化に合わせて進化した概日周期は、細胞全体のアクティビティーがグルーバルに変化する多くの分子が同調した変化だが、これが昼行性に変わった進化のメカニズムを探ろうとした研究が英国MRC分子細胞学研究所から2月26日号の Science に発表された。タイトルは「哺乳動物の昼行性夜行性スイッチの細胞学的基盤」だ。

個体レベルの概日周期は細胞レベルの概日周期を調節できる。例えば季節による日照時間に合わせた調節などは最もよく知られている。ただ、温度変化は概日周期には影響が少ないとされてきた。この研究では、細胞を温度の周期にさらしたとき、周期をずらすことができるかを、昼行性の人間の細胞と夜行性のマウスの細胞で調べている。期待通り温度のサイクルも概日周期を変化させられることはわかったが、変化の仕方が両者で全く違うことがわかった。即ち、昼行性の細胞は温度サイクルによる調整が起こるが、昼行性の細胞の変化は少なく、しかも時間が進む方向で調整される。一方、夜行性の細胞は時間が遅れる方向に大きく変化する。

リズムは逆さまでも、概日周期は同じPER2の発現量を変化させるフィードバックループを利用しているので、下流の遺伝子が同じならこのような違いは起こるはずがない。即ち、昼行性が進化する中で下流の遺伝子も、特に外界の温度変化に関わらず概日周期を刻めるように進化したと考えられる。

そこで温度や細胞内の浸透圧などを感知して細胞の代謝を変化させるハブ遺伝子mTORとWNK1遺伝子に絞って、昼行性細胞が温度変化に耐性になった原因を調べていくと、昼行性の細胞と、夜行性の細胞で、リン酸化による調節様態がかなり異なっていることを発見する。すなわち、昼行性と夜行性細胞の温度感受性の差は、mTORの温度による活性の差を反映する可能性がある。そこで、夜行性の細胞と昼行性の細胞にmTOR阻害剤を加える実験を行うと、昼行性の細胞の概日周期は耐性を示すが、夜行性の動物はフェーズが遅れて、昼行性のパターンへと変わる事がわかった。即ち、進化的に古い夜行性の概日周期は、mTOR変化に影響されるが、昼行性への変化の過程で、温度や浸透圧の差に影響を受けない様に進化したことがわかる。事実、mTORとともに細胞内の代謝のバランスを維持する重要な分子、WNK1やRRAGB遺伝子は、他の分子と比べて進化の速度が速いことも確認している。

最後に、ではmTORの活性を変化させることでマウスを夜行性から昼行性へと変化させられるか? mTOR阻害剤を用いた実験から、完全ではないがかなり昼行性に変えることが可能である事を示している。また、阻害剤だけでなくmTORの活性を変化させる食制限や、メチオニン摂取の抑制を行い行動を調べると、完全ではないが少し昼行性に変化することを観察している。

結果は以上で、低い温度で活動する夜行性の哺乳動物が、昼行性へと概日周期を変化させるためには、細胞内代謝調節に最も重要なmTOR-WNK1ループに関わる遺伝子群の変化が重要だったことを示す面白い論文だと思う。おそらくそのおかげで、人間のような昼行性動物は様々な環境で概日周期を維持するメカニズムを獲得し、地球の昼を支配するようになった。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月1日 Treg細胞を選択的に増殖させるペプチド薬の設計(2月25日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年3月1日
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3月10日夜7時からジャーナルクラブを開催する予定で準備しているが、今回のタイトルは「中国の創薬」にしようと考えている。というのも、論文を読んでいてこの2−3年、中国アカデミア(製薬企業は除外している)の創薬が創造的で一段高いレベルに到達しているのを強く感じるからである。もちろん人口や資金など量の問題もあるが、それぞれの論文について我が国も真剣に学ぶ必要があると考え計画した。特に政治レベルの緊張関係が存在し、嫌中国が広まる今こそ、中国アカデミアの躍進を冷静に分析することが必要になる。

今日紹介する中国上海にある同済大学からの論文も、免疫の制御に坂口さんのTregを選択的に誘導する方法を開発するという世界共通の課題に、かなりユニークな手法で取り組んで、6アミノ酸がつながったペプチド薬を開発した研究で、2月25日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A peptide immunomodulator activates MST1 to expand and stabilize murine and human regulatory T cells for immune tolerance(MST1を活性化する免疫刺激ペプチドはマウスと人の制御性T細胞を増やし安定化することで免疫トレランスを誘導できる)」だ。

ペプチド薬は現在創薬研究の重要なモダリティで、我が国では中外製薬が有名だが、この研究ではTregを選択的に増やすペプチドを探索している。この研究がユニークな点は、この探索にあたって通常では考えつかないような生成AIを用いている点だ。現在創薬に大規模言語モデルが使われるようになって、膨大なデータを学習させたモデルが世界中で作られているが、この研究はわざわざ一昔前の、しかも小さなAIを用いる方法を開発している。

その詳細だが、ニューラルネットにタンパク質やペプチドライブラリーを学習させる代わりに、この研究ではタンパク質に存在する構造化していない領域 (IDR) だけを取り出して学習させている。すなわち、Tregの維持に様々なタンパク質がIDR部分を介して相互作用するはずで、これを学習させてそのコンテクストを拾うことでペプチドが設計できると考えた。

コンテクストを拾うために、例えば Transformer などの最新の方法を使うわけでなく、学習したIDRから様々な長さのペプチドストレッチを単語の繋がりのように抽出する N-gram という一昔前の深層学習法を利用している。しかもこの研究では、データベースよりTregで働いていることが知られるたった53種類のタンパク質のIDRを学習させ、N-gramで、2ペプチドから6ペプチドまでの n-gram=ペプチド を設計させ、その中からT細胞に加えた時Foxp3陽性細胞が強く誘導されるDL-6Pを選び出している。

あとはこのペプチドの作用メカニズムを調べ、最後にさまざまな免疫疾患を抑えるかどうか調べている。まずペプチドが結合する標的を探索すると、Tregの安定性を維持することで知られるMST1キナーゼが特定された。即ちDL-6Pが結合することで、MST1が安定したホモダイマーを形成する。しかも、この結合によりIL-2下流のJAK-STAT5シグナルを押さえるSOCS1にMST1が結合してシグナル抑制を外してIL-2への感受性を上昇させるとともに、MST1が核内で直接Foxp3と結合して、Foxp3の分解を抑えることで、Tregを安定化させることを示している。おそらくこんな一石二鳥のようなペプチドを探索できるのも、ユニークな方法の結果だろう。

後は、硫酸デキストランで誘導される大腸炎、歯周炎、さらにGvH反応をモデルに、低い濃度IL-2とDL-6Pを加えることでTregを選択的に誘導し、免疫反応を抑えられること、そしてこの効果はMST1をノックアウトすると消失することから、MST1依存性に起こっていることを証明している。

これがそのまま薬剤になるかどうかは疑問がある。と言うのもMST1はオートファジーからアポトーシスまで様々な過程を調節するため、Tregだけに効果を期待するのは難しい。しかし、試験管内でTregを誘導したり、あるいは急性期に短期に、と言った使い方は可能になると思う。一方で、同じような方法でTregを選択的に抑えるペプチドが開発できれば、ガン局所に注射してガン免疫も高められるかもしれない。3月9日に皆さんと中国アカデミアの創薬力を学ぶことを楽しみにしている。参加希望者は連絡してほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月28日 X染色体から見るネアンデルタール人と現生人類の生活様態(2月26日号 Science 掲載論文)

2026年2月28日
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我々現生人類 (anatomical modern human:AMH) のゲノムにはネアンデルタール人 (NM) のゲノムが紛れ込んでおり、一人の人間ではゲノム全体の2%程度ぐらいの量でも、今生きている人間全てに紛れ込んでいるNMゲノムを探していくと、ほとんどNMゲノム全域をカバーする断片を特定できる。即ち、交雑したときのNMゲノムは何万年も経つ間に断片化されていても、現在の人間にしっかりと受け継がれていることになる。とは言え、X染色体には neanderthal desert と呼ばれる世界中の人を調べてもNMゲノムが存在しない箇所が存在する。

何故このようなことが起こるのかについて、一つはNMのX染色体にコードされる遺伝子がAMHと比べて生殖能力に劣るからと言う自然選択説と、交雑時のバイアス、すなわち交雑時にAMHのメスが選ばれる確率が高いとする性バイアス説が存在していた。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、この問題に対しNMのX染色体に導入されたAMHゲノムを調べることで、単純な自然選択説を否定するとともに、NHとAMHの交雑時の好みの問題がNM desertの原因である可能性を明らかにした研究で、2月26日号 Science に掲載された。タイトルは「Interbreeding between Neanderthals and modern humans was strongly sex biased(ネアンデルタール人と現生人類の交雑は強い性バイアスが存在した)」だ。

単純に自然選択説が働いてこの現象が起こるとすると、NMのX染色体を調べると、desert領域に選択的にAMHゲノムが挿入されているはずである。研究ではまずこの可能性を、Altai、Vinja、ChagyrskayaのNMゲノムと、NMとの交雑のないサハラ以南のホモサピエンスゲノムの解析結果から計算している。

その結果、Altai NMの女性には広くAMHのゲノムが入り込んでいるが、desert領域選択的に置き換わっているわけではないこと、また自然選択に関わるコーディング領域やエンハンサー、プロモータと言った遺伝子機能に関わる部位より、機能のない領域により多く置き換えが見られることから、自然選択は考えにくいと結論している。

驚くことに、Altai NMの常染色体とX染色体でのAMHゲノムの置き換え比率を調べると、X染色体の方が1.62倍も多く置き換わっている。しかし既に述べたように、機能的領域は逆に置き換えが少ないため、このX染色体にみられる2倍近い置き換えを説明するには、自然選択ではなく、何らかの性バイアスが働いたと考える必要がある。

問題は、一度の交雑で発生するバイアスは、オスが1X, メスが2Xとして計算するとNMオスからメスへの交雑でAMH Xが優勢になる確率は高々4/3=1.33なので、NMに見られる1.6のような高い比率を説明するためには、例えばNMのオスがAMHのメスをNMのメスより好むと言った状況が生じる必要がある。研究では、例えば25万年前にNMに導入されたAMHのオスの遺伝子が、NM集団に好まれるメスのタイプを発生させ、そこで出来上がったAMHのメスへの嗜好性が、AMHのメスを集団に取り込んで一緒に暮らした可能性まで様々なシミュレーションを行い、AMHのメスがNMのオスに何らかの理由で好まれたと考えるのが、一番現象を説明できると結論している。

逆に、NMから入ったX染色体遺伝子はAMHのオスにも好まれなかったと考えると、NM desertが存在するのも説明できる。

もちろん「好まれる」というのが単純に「かわいい」と言った話でないとは思うが、今後NM X desertに存在する遺伝子から生まれる形質の変化が予測できると、当時のオスの異性への嗜好性の理由、あるいはAMHのメスの生物学的優位性の特定も可能になる。

これまでNMとAMHの交雑というと、道すがらの強姦と言ったイメージを持っていたが、この論文を読んで、NMとAMHが一つの集団として一緒に生活する可能性すらある事がよくわかった。面白い。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月27日 他家間葉系幹細胞移植による運動機能の改善(2月25日 Cell Stem Cell オンライン掲載論文)

2026年2月27日
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様々なソースから樹立した間葉系幹細胞 (MSC) を抗老化に利用する治療が拡大している。多くの場合メカニズムを飛び越して臨床に進んでいる印象があるので心配だが、昨年6月に紹介した北京大学の論文では、抗老化作用を持つFoxo3を導入したMSCが、アカゲザルの様々な機能を改善し、年齢で言うと5歳若返らせたという論文には驚いた(https://aasj.jp/news/watch/26944 )。MSCによる抗老化治療のブームを予感させる。

抗老化作用を期待してMSCを静脈注射する治療法は以前から盛んに行われており、特にマイアミ大学のグループは骨髄由来MSCを一回だけ静脈注射する介入の治験を2017年に発表し、自覚症状とともに一定時間に歩く距離を伸ばすことが出来ることを論文発表していた(Journals of Gerontology: Medical Sciences、2017, Vol. 72, No. 11, 1505–1512)。そして、この治験をベースにFDAの認可を受けるべくMSCを Laromestrocel と名付けた製品化し、昨年4月アルツハイマー病患者さんに投与するプラシーボをおいた無作為化第二相治験を行い、症状とともに脳萎縮を抑える可能性を示した論文を、Nature Medicine に発表している(Nature Medicine , 2025: 31,1257–1266)。

そして今日紹介する同じグループからの論文は、製品化した Laromestrocel が筋肉老化による運動機能の低下を抑えること、そしてその背景にMSCから分泌されるメタロプロテアーゼ阻害分子がある事を示した研究で、2月25日 Cell Stem Cell に掲載された。タイトルは「Randomized phase 2b dose-escalation trial of stem cell therapy with Laromestrocel for aging frailty(老化に伴う虚弱に対する Laromestrocel の無作為化容量エスカレーション第二相治験)」だ。

研究自体は先に挙げた2017年の論文とほとんど変わっていない。ただ、マイアミ大学のグループは、大学からスピンオフし Longeveron と言う会社を設立しており、論文はこの会社から発表されている。またNature Medicine の論文から、細胞製剤として製品化した治療法の治験になっており、FDA認可申請が視野に入っている。そして、そのためのバイオマーカー開発とある程度のメカニズムの提案が行われている。

対象は70歳から85歳の男女で、軽度から中程度 Frail と診断され、6分間に200−400m歩く能力を持っており、TNFα が上昇して老化による炎症が検出されることを条件としている。これまでの研究で、Loromestrocel の重要な作用の一つが炎症を抑えることを示しているので、わざわざ TNFα を対象選択の条件としている。

注射された細胞数は、25−200milionで、注射による副作用は全くないとしている。さて結果だが、6分間に歩く距離が、投与した量に応じて改善し、200milionグループは投与後9ヶ月で40mも長く歩けるようになっている。6分で平均300mほど歩くグループなのでその改善程度は大きい。また、歩く距離の改善と平行して、様々なFrailtyスコアも改善している。

結果は以上だが、この研究の最重要ポイントは、血中のTie2分子の低下を治療効果のバイオマーカーとして使えることを示した点だ。Tie2は血管内皮が発現している膜分子だが、間質のメタロプロテアーゼにより切断され血中に流れてくる。Frailtyが進んで炎症が高まると、血中のTie2が上昇する事になる。この上昇を投与細胞数に応じて強く抑制することが出来ることから、効果のバイオマーカーになると提案している。すなわち、Laromestrocel は間質細胞として、Tie2を刺激するアンジオポイエチンなど様々なサイトカインを分泌するとともに、メタロプロテアーゼを阻害して、膜分子の切断を抑えることで、効果を示すというわけだ。

個人的には、一般美容診療にまで拡がりを見せるMSC治療にあまりいい印象はないが、しかし製品化と無作為化治験を経てFDAが認可するとなると、展開のフェーズが変わるような気がする。現在FDAが認可したMSC製剤は小児のGvHを押さえる Remestemcel 一つだけだと思うので、認可のハードルは高いが、さてどうなるか。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月26日 飼い猫のガンにはRAS変異が見当たらない(2月19日 Science 掲載論文)

2026年2月26日
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今日紹介するウェルカム・サンガー研究所からの論文は、組織学的診断が確定した飼い猫のガンのパラフィンブロックからガン組織と正常組織を取り出し、それぞれのゲノム配列を調べ、猫のガンの遺伝子変異を俯瞰的に調べた研究で、2月19日号 Science に掲載された。タイトルはズバリ「The oncogenome of the domestic cat(飼い猫のガンゲノム)」だ。

493種類のガンの割合では、皮膚のガンと口内の扁平上皮ガン、そして皮膚マスト細胞腫瘍が人間などよりはるかに多い気がするが、肺ガン、乳ガン、大腸ガン、膵臓ガン、そして白血病など人間に多く見られるガンは同じように存在している。また、発ガン年齢も10歳前後がピークで、人間で言えば60歳ぐらいに相当するのではないだろうか。

次に突然変異の頻度だが、皮膚ガンが圧倒的に多い。しかも変異のパターンは紫外線照射が原因の変異と特定できる。皮膚と紫外線自体はうなずけるが、しかし飼い猫がそれほど日光に当たっているとは少し不思議な気がする。元々修復機構に異常があるのかもしれない。

今回タイトルには、この論文を読んだ正直な感想を入れたが、発ガンに関わると思われる遺伝子をリストしていっても、今回調べられたガンの中には、人間のガンで最も多いドライバー変異であるRas遺伝子の変異が一つもない。猫にも、K-ras、H-ras、N-rasが存在し、調べてみるとN-ras変異を持ったリンパ腫の報告があるようだが、確かにRas変異によるガンについての報告はほとんどないようだ。従って、トップゲノム研究所が行った500種類の猫のガンゲノム解析でRas変異が全くないというのは、決して間違いではなく、極めて重要な発見に思える(最後にディスカッションしておく)。さらに、Rasとセットになって上皮発ガンに関わるAPCの変異の頻度も少ない。一方、p53等は3割以上のガンで認められている。

この研究では、猫に皮膚ガンが多いのは、ガンにパピローマウイルス感染が見られることから、人の子宮頸がんや喉頭ガンと同じように、これが発ガンに関わってる可能性があると示唆している。とすると、ワクチンによる予防も可能かもしれない。

また突然変異ではなくガンになりやすいゲノムの存在も解析しており、20種類の遺伝子変異を特定している。ただ、何匹もの猫で見つかっている遺伝子は、DNA修復や細胞周期に関わる遺伝子CHEK2の変異にとどまっている。

最後に、人間と猫で共通に見られる変異を調べているが、PI3KCA、p53、Wntシグナルに関わるCTNNB1、ユビキチンリガーゼFBXW7ぐらいにとどまっており、RasやAPCの変異が少ないことも合わせると、猫と人間の発ガンには大きなメカニズムの違いがありそうだ。

最後に、愛猫家が一番心配する変異遺伝子を参考にした治療の可能性だが、PI3KCAを始め、Kit、MAPK、FGFRなど、人間向けに開発された薬剤も結構使える可能性があり、お金をかけても遺伝子を調べて治療する可能性はある。ひょっとしたら、そんなサービスも出来るかもしれない。最後に、標的遺伝子ではないが、ユビキチンリガーゼ変異から感受性が予測できる抗ガン剤の組み合わせを、猫ガンの3次元培養で確かめることも出来ることを示している。おそらく愛猫家には、この結論が一番重要だろう。

しかしこの論文を読んでの大きな驚きは、Ras/APC/p53 という上皮ガンの王道とも言えるセットがほとんど猫で働いていない点だ。すなわち、この経路での発ガンが何らかのメカニズムで抑えられている。例えばクジラがガンになりにくいのは遺伝子修復効率が高まっているからだが、このメカニズムでRas変異による発ガンを押さえられる確率は低い。一方ゾウのようにp53がすぐに高まって老化細胞がすぐ死んだり、ハダカデバネズミのように自然炎症が抑えられているような変化はRasによる発ガンを起こりにくくするかもしれない。などなど、このメカニズムを知ることで、我々に多いRas変異によるがんの予防が可能になるかもしれない。

一般の方は、人間、ネズミ、猫と比べたとき、猫の方が人間に近いと思いがちだが、猫やイヌは進化的にネズミなどより遙かに離れている。その意味でネズミでガンの研究をするのは理にかなっているが、しかし他の哺乳動物からも学べることは多い。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月25日 プログラム作業への生成AIの浸透(2月19日号 Science 掲載論文)

2026年2月25日
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一般に生成AIが使える様になった後、患者さんの団体に利用を勧めた。あれから二年、おそらくうまく付き合っておられるのだろう、病気についての問い合わせは激減した。事実、最近日本で認可されることが発表されたFOP治療薬の最新状況について聞くと詳しい答えが返ってくる(https://chatgpt.com/share/699e28dc-6b50-8008-814e-840f955b4a35)。 2月19日のソホノスの認可からリジェレロンの薬剤への期待まで、私から見てもほぼ完璧な答えが示されている。生成AIにより8割のコンサルタント業が消失するといわれているのは肯ける。

今日紹介するオーストラリア Complexity Science Hub 研究所からの論文は、生成AIにより既に影響が出ているプログラム作業への生成AIの浸透を調べた研究で、2月19日号 Science に掲載された。タイトルは「Who is using AI to code? Global diffusion and impact of generative AI(だれがAIをプログラムに使っているか?生成AIの世界的浸透とインパクト)」だ。

現在半分以上のプログラマーに利用されているのがPythonだが、この研究では生成AIが使われたプログラムをAIに学習させることで、プログラム中のAIが使われた箇所を特定するシステムを開発している。多くのジャーナルで生成AIを使った文章をチェックするのと同じような物と考えればいい。このAIを利用して、GitHub に登録しているユーザーからランダムに2000人/year(トータルで6000人)のプログラム開発者を選び、GitHub にデポジットしたプログラムが生成AIをどのように使っているのかを分析、プログラマーのプロフィルとともにそのデータを解析している。

これまで生成AIの浸透についての調査はほとんどアンケートなどのサーべーで行われているのに対し、この方法だとプログラム分野に限られるが実態を詳しく解析できる。ChatGPTが利用される時期からプログラムへの生成AIの利用は上昇し、現在では28%のプログラムは何らかの形で生成AIを使っている。

次に、このAIの浸透の広がりを米国、ドイツ、フランス、中国、ロシア、インドについて調べている。このような調査に日本が選ばれなくなっているのにがっかりするが、ChatGPTが利用されるようになってすぐには大きなリードを保っていた米国は、ドイツやフランスに急速に追い上げられている。次がインドで、驚くことに中国がかなり遅れている。ただ、これは中国のプログラマーがChatGPT等を自由に使えず、またオープンなGitHubへのデポジットをためらうからかもしれない。今はDeepSeekが使えることから、ほとんど差はないのではないだろうか。逆に我が国での現状も是非分析してみる価値はある。

次に、プログラマーの経験年数と生成AIの利用状況を見ると、経験の浅いプログラマーほど生成AIを使う傾向がある。とは言え、経験を積んだプログラマーと経験の浅いプログラマーが利用した生成AIのプログラムへの寄与を調べると、全ての分野で経験を積んだプログラマーのプログラムへの貢献度が高いことがわかる。即ち、経験の高いプログラマーほどうまく生成AIを使いこなすことがわかる。生成AIを使う前と後で、経験者のプログラムを調べると、それまであまり使っていなかったPythonライブラリーも比較的自由に使ったプログラムを書くようになっていることがわかる。

結果は以上で、生成AIについて様々なことを教えてくれる優れた論文だと思う。すなわち、生成AIを使うための専門知識が必要で、その上に生成AIは新たな専門を積み重ねてくれるということがよくわかる。おそらく医学についても同じで、患者さんの団体もある程度の専門知識があることから、急速に生成AIを使える様になっていったのだと推察する。同じことは子供の教育にも言える。生成AIのおかげで、記憶を強要する必要はなくなったが、知識を得るための土台をどう作るのか、真剣に考えるところに来ていると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月23日 スタチンの副作用の再検討(2月14日号 Lancet 掲載論文他)

2026年2月24日
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当時の三共製薬(現在は第一三共)の遠藤さんにより開発された HMG-CoA reductase 阻害剤スタチンは、おそらく何千万人もの人に利用され、動脈硬化に起因する心臓死を防いできた。特に生活習慣病の薬剤として長期にわたって安全に服用し、病気を防ぐという意味では画期的な薬剤で、私たち夫婦もその恩恵にあずかっている。使用に当たって最も重要なのが副作用で、例えばリポバス(シンバスタチン)の説明書には、横紋筋融解などの筋肉症状に加えて、肝炎、肝機能障害、黄疸、末梢神経障害、間質性肺炎が可能な副作用として書かれており、血中の酵素で調べるいわゆる肝機能検査が異常値だと使用を躊躇することになる。実際スタチンの副作用が20%の人に見られるという論文が発表された後1年間に、英国だけで20万人の患者さんがスタチンをやめ、その結果2000-6000例の心臓発作を予防できなかったと推定されている。

今日紹介する Cholesterol Treatment Trialists (CTT) と名付けられたオックスフォード大学を中心にした国際グループからの論文は、スタチンの大規模治験のメタアナリシスだが、参加者の個人データを再検討して副作用について調べ直した研究で、2月14日号の Lancet に掲載された。タイトルは「Assessment of adverse effects attributed to statin therapy in product labels: a meta-analysis of double-blind randomised controlled trials(説明書に書かれているスタチン副作用の検討:無作為化二重盲検治験のメタアナリシス)」だ。

この研究では、個人データを再検討できる19の治験について、特に False Discovery Rate を制御した上で、副作用を解析し直している。その結果、確かに高用量で血清のトランスアミラーゼは高まることは観察されるが、アルカリフォスファターゼや γGT の上昇は観察されず、閉塞性肝疾患、黄疸、肝不全が起こることはないと結論している。

他にも、尿タンパクの上昇は見られることがあるが、沈渣で血球が見られる異常は起こらず、また浮腫が起こるという報告は全くない。他にも、認知機能、ウツ症状、睡眠障害、末梢神経炎もスタチンの副作用として認定できない。

以上の結果から、説明書はもっと現実的な指示に変えるべきであると結論している。即ちこれまでの副作用リストを省くのが難しい場合、実際の可能性についてもう少し詳しく書き直すべきだと推奨している。

ただ、この研究で調べ直していないのがスタチン服用による筋肉症状で、これについては昨年12月に米国コロンビア大学から The Journal of Clinical Investigation に、11月20日にカナダ British Clumbia 大学から Nature Communications に、副作用発症メカニズムについての研究が発表されているので、短く紹介する。

両方の論文とも、スタチンと筋肉に発現しているカルシウムチャンネル放出チャンネル・リアノジン受容体とスタチンの結合をクライオ電顕で構造的に解析し、スタチンの結合によりチャンネルの孔が大きくなりカルシウムが過剰放出されるのが筋肉症状の原因である事を突き止めている。

最初の論文ではシンバスタチン、次の論文ではアトルバスタチンとそれぞれ type 1、 type2 の異なるスタチンが用いられているが、結論はほぼ同じで、複数のスタチンがリアノジン受容体に結合して、構造を変化させる。即ち、スタチンが本来の標的以外の分子に結合することで副作用が生じる。

後はシンバスタチンだけについて説明すると、通常の薬のように分子のポケットに入るのではなく、チャンネルが孔を形成している領域の比較的オープンな構造にシンバスタチンが結合し、これによる構造変化でアクセスできるようになった部分にもう一つのシンバスタチンが結合して、穴が大きくなることが構造的に示されている。

以上の結果から、リアノジン受容体への結合はどのスタチンでも見られることから、スタチン服用で筋肉からのカルシウム放出が誘導される可能性があることは間違いない。しかし、結合自体が分子のオープンな構造を標的にした弱い反応である事、複数のスタチンが結合しないと最終効果が得られないことなどから、正常の人では、その後の適応によりほとんど問題にならないと結論している。

一つ明確になった重要な問題は、リアノジン受容体の変異を持つ患者さんでは、スタチンの効果が高まってしまうため、重症な筋肉障害につながる可能性があることが示された点だ。スタチンによるカルシウム放出亢進は、症状の全くない片方の染色体にだけ変異がある人でも見られることから、遺伝子検査を行ってリスクを防ぐことが副作用軽減の最も重要なポイントになる。

ただ、スタチンが結合する時に働く疎水性の領域は、HM-CoA reductaze の結合には必要無いので、今後筋肉症状を誘導しないスタチンを設計することは可能だ。さらに、カルシウムチャンネルを修復するRycalを併用することで、症状を防ぐことも出来るので、絶対必要な場合スタチンを諦める必要はないというのが結論になる。

今や脂肪を下げると宣伝している飲料などよりずっと値段も安く、さらに効果ははっきりしているので当分は服用を続けよう。

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