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5月24日 太古の真核生物は酸素を必要としたか(5月20日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月24日
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2日間、AIの話題が続いたので、今日は全く異なる分野、10億年以上前の生物についての超古生物学に関するカナダ・McGill大学と米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文を紹介することにした。タイトルは「Early fossil eukaryotes were benthic aerobes(初期の真核生物化石から酸素を必要とする底生生物である事がわかる)」だ。

地球は酸素を合成するシアノバクテリアの誕生で24億年から20億年に酸素の存在する環境へと変化する。これと呼応して20億年ほど前に真核生物が誕生したとされている。何故真核生物誕生時期がわかるのか?というと、まず単細胞でも化石化されると、細胞の構造痕跡がのこっており、真核細胞か原核細胞かを判断することができる。まず大型の細胞化石はほぼ真核生物と言え、さらに表面の複雑性や、核を含む細胞内器官の痕跡を特定することで、真核生物かどうかを判断している。もちろん遺伝子を調べることはできないが、ステランと呼ばれる脂質を中心とするステロール解析からも、真核生物と判断できる。

この研究で問われたのは、真核生物(おそらくミトコンドリアを備えている)は早い時期から酸素を必要としたのか?、すなわち20億年以降急速に進んだ真核生物の多様化や複雑化に酸素呼吸は必要だったか?だ。さらに、形態的真核生物化石の特定と、真核生物のステロールによる化学的特定(10億年前)までに、10億年近いギャップがある点も説明しようとしている。

この目的のために、17億年から13億年までのミクロ化石が集積している北オーストラリアの堆積盆地をボーリングし、地質学的酸素環境と真核生物化石の相関を調べている。発掘した環境について、酸素環境だったか、それとも還元環境だったかをまず明らかにし、そこに存在する化石の種類を調べている。素人が驚くのは、細胞レベルの化石がきちっと分類されていることだが、示された写真を見ても、地層の中からよくまあ特定できるなと、科学的蓄積の豊かさに驚く。

結果は予想通りで、酸素の少ない環境からも真核生物は検出されるが、圧倒的多数の真核生物化石は酸素環境から見つかる。これらは生物の死骸が堆積している底で棲息する底生生物だが、酸素の存在する岸に近い領域にのみ見つかることから、17−13億年前の真核生物は、現在のような水に浮かんで棲息するプランクトンは存在しないことが示唆された。この結果から、基本的に13億年以上前の真核生物のほとんどは酸素環境で化石化したため、その過程でステロールが酸素のために残らなかったのではと考えている。そして岸辺の酸素環境の中で進化する過程で、プランクトン型の真核生物が生まれると、これらは海を漂うことで、深い酸素のない海の底に沈殿することが出来、結果真核生物化学マーカーであるステロールを保持した化石が出来たと考えられる。

以上が結果で、古生物学と言っても極めて専門性の高い、おそらく研究者も少ない領域だと思う。それでもAI時代に、この小さな研究領域が、多くの研究者を魅了するのも科学の素晴らしい特徴と言える。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月23日 GPCR標的タンパク質デザイン:Baker研の総合力(5月20日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月23日
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我が国でも成長戦略の一環として実験室に AI Agent を導入する AI for Scientist プロジェクトの公募が始まっているようだが、プロジェクトの成功は昨日の論文からもわかるように、いくつかの明確な標的分子を決めて、これを操作する化合物やペプチドの特定をベンチマークにすることだと思う。昨日紹介した既に論文までになっている世界の進展状況を考えると、立ち後れた我が国の研究は、創薬候補特定コンペとして設定し、広い範囲の研究者がその目的のために組織され、コンペに勝ったグループだけにお金が行くぐらいの思い切りが必要だと思う。いずれにせよ進展を注視していきたいと考えている。

繰り返すが、「役に立つ」製剤の設計が出来るかが鍵になるが、これにはドライからウェットまで多くの分野の研究を集める総合力が必要になる。その典型が2024年ノーベル化学賞受賞者の一人 David Baker さんの研究室で、大きな創薬企業に匹敵するぐらいの「役に立ちそうな」製剤を開発してきた。今週アップロードされた Nature には Baker 研からの論文が3報も発表されていた。2報は、ウイルス粒子のような大きなケージタンパク質の設計で、残りはGPCR結合タンパク質設計についての論文になる。特にGPCR論文は目標を実現する総合力が重要であることを明確に示す論文なので、今回取り上げることにした。タイトルは「De novo design of miniproteins targeting GPCRs(GPCRを標的にするミニタンパク質の新規デザイン)」で、5月20日 Nature にオンライン掲載された。

我々は800種類以上のGPCRを使っており、半分以上は臭い、フェロモン、味覚受容体だが、3−400種類のホルモンや神経伝達因子受容体もこのグループで、このブログで最近紹介する機会が多いGLP-1/GIP受容体もこのグループに属している。そのため、GPCRを特異的に刺激したり抑制したりする分子の探索は創薬の重要な領域になっている。ただ、GPCRのリガンド結合部位が浅いことや、結合により形態変化が大きいなど様々な問題があった。実際、GLP-1/GIPRアゴニストも天然のペプチドを操作して開発された。

Baker 研でもおそらく重要ターゲットとしてデザイン研究を進めていたと思う。ただ、これまで報告されてきた標的分子と異なり、開発されたタンパクデザインツールだけではうまくいかなかったのではと推察する。しかし目標は明確なので、RFdiffusion といったデザインモデルにこだわることなく、これまでの研究蓄積の生かせる方法へと舵を切って、11種類のGPCRに結合するミニタンパク質が設計できることを示したのがこの論文になる。

RFdiffusion を開発する前、Baker さんは短いペプチドを組み合わせてデザインする研究を行っていた(https://aasj.jp/news/watch/14170)。今回新たに導入した方法は、最初から全ペプチドを設計するのではなく、バックボーンとなる5ペプチドライブラリーからスタートして、RDdiffusion を使う方法で、これにより設計する数を大幅に減らすことができる。ただ、GPCRの構造上の問題から、候補を100個以下に絞るのは難しい。そこで、一万種類程度の遺伝子ライブラリーを作成して、GPCRに対して通常の結合や機能を指標とするスクリーニングを行っている。この時、この分野の専門家を動員しているようで、論文には多くの研究室が共著者として名を連ねている。

まず、痒みに関わる受容体 (MRGPRX1) を刺激するペプチド及び痛みに関わるニューロキニン受容体の抑制ペプチドを設計し、最終的にクライオ電顕でデザインした通りにペプチドがはまり込んでいることを確認している。

他にも、ケモカイン受容体CXCR4、最近最も注目されているGLP-1R、GIPRを含む4種類のGPCRについても、同じ方法で候補を設計し、これまで一般に行われているスクリーニングを組み合わせると、阻害活性を持つペプチドを得ることが出来ることを示している。

それぞれの生理活性については試験管での機能を指標にした評価以外には示されていないが、唯一CXCR4の結合を阻害するペプチドについてその機能を調べている。これまで阪大の長澤さんたちが示してきたように、この阻害ペプチドを皮下注射するだけで、血液幹細胞が骨髄ニッチを離れて末梢血に流れてくることから、期待通りの生理活性も十分なることがわかる。

以上が結果で、設計された個々のペプチドについての紹介は全て省いたが、設計と実際が一致するかについては丹念な検討がなされている。即ちデザインだけにこだわることはない。AI Agent と同じで、創薬などの開発をより効率化できればいいので、AI for Scientist プロジェクトでもこのような研究を指標に、選んでほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月22日 AI Agent は実験現場を変えるか(5月19日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月22日
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Natureでは日本時間の木曜日に新しい論文がオンライン掲載される。驚いたのは今週の発表された生物系論文の中に7報近くのAI 論文が含まれていたことで、3報は Baker 研からのタンパクデザイン、1報はマウスのボディーマッピング AI、そして実験室での AI Agent 関連の論文が3報も含まれていた。まさに時代の変わり目にいることを感じている。今日、明日と学生さんや研究者に話をする機会があるので、この感覚を是非伝えたいと改めて感じている。

今日まず紹介したいのは AI サイエンティストについての研究を行っている Future House と Edison Scientific の研究者による論文で、いわゆる AI Agent の実験室への導入について研究している。タイトルは「A multi-agent system for automating scientific discovery(複数のエージェントによる科学的発見の自動化)」で、5月19日 Nature にオンライン掲載されている。同じ号に Google の研究者が Gemini をベースにした実験アイデアの生成について、「Accelerating scientific discovery with Co-Scientist (Co-Scientistを用いて科学的発見を加速する)」も発表されているが、素人目ながら Future House の研究がより具体的で包括的なのでそちらを紹介する。

AI の発展はGPTやジェミニといった汎用モデルの開発だけではなく、実に様々な分野で多くの特異的モデルが開発されている。特に生命科学では、文献検索からアイデア生成、さらに実験の計画からデータのまとめ、解釈、そして論文作成まで、多くのモデルが開発されている。従って、必要なモデルを集めて、目的に対する答えを探る AI Agent の開発が重要になる。隠居暮らしの私は研究現場で使うことはないが、Claude と Open AI を組み合わせた AI Agent の力には驚いており、実験室で使うのは当然の流れだと思う。

この研究では、研究の目的をインプットすると、まず文献検索から様々な可能性を生成する PaperQ2 をベースにしたモデルに、これまでの研究に基づく実験の可能性を生成させ、提案された可能性をもう一度文献から深く検討し直して、優先順位や実験の方法について提案させ、それに基づいて実験を行った後、JupyterNote をベースにしたモデルを用いてデータをまとめて解析し、次の実験へつなげる3種類のモデルを使った AI Agent を設計している。ポイントは、完全自動実験システムではなく、それぞれのモデルをつなぐのは人間で、AI Agent から出てきたアイデアや解析を、もう一度吟味し直して最終結論を得るようにしている。その意味では、我々が他の目的で用いている AI Agent と同じで、わかりやすい。

このような研究で最も重要なのはわかりやすい例を示すことで、この研究では加齢黄斑変性症 (dAMD) の新しい治療方法開発を目的としてこの AI Agent の実力を示している。

まず、dAMD の治療薬の候補を文献サーチで探させると、151論文から10種類の化合物の候補がリストされ、一つ一つについて深く調べさせて蓋然性をランキングすると、トップランクとして網膜色素上皮の貪食能を高める薬剤が効きそうだと答えが返ってくる。そこで、このアイデアの蓋然性を再度評価させるとともに、現存の薬剤から使えるものをリストするよう指令を出すと、最終的に30種類の薬剤と、それぞれについての詳しい解説が出てくる。さらには言語モデルを用いて可能性のランク付けすら出来る。この結果、4種類の単剤と、1種類の合剤が色素上皮の貪食を上昇させるという最終提案が出る。

次にこの提案を実験に移すときの実験プロトコルも、この AI Agent から指示される。ここでは、Flow cytometer や single cell RNA sequencing や iPS細胞由来の色素細胞を使うように指示が出るが、これについては人間の方で、細胞株と通常の RNA sequencing を用いた方法に変えて解析を行い、その結果は一般に使われている Jupyter Notebook をベースにしたモデルで解析させ、最も効果がある薬剤としてROCK阻害剤Y-27632が最終候補として示される。

最終候補の評価のための実験も提案させることが出来、この場合提案通り実験を行い、アクチンフィラメントの再構成に関わる分子、オートファジーなどに関わる分子とともに、ApoE の受容体ABCA1の発現上昇という新しい発見までつながっている。

最後にY-27632に類似の効果を持つ薬剤を検索させ、なんと我が国発の緑内障治療薬ripasudil がリストされ、色素細胞の一時培養に加えた実験を行うと、ripasudil が Y-27632 を凌駕するという結論が出、ripasudil が治験候補と結論づけられる。

以上が結果で、今皆さんが AI Agent を使っておられるのと同じように、人間の仕事をより効率化し、しかも考えていなかった新しい発見まで可能になることを示しており、より実験室に馴染むAIの利用が提案されたと思う。おもしろいのは、PaperQ2 などのモデルを OpenAI に変えると、ROCK阻害剤が提案されなかった点で、何が最も効率的なのかについてはまだまだ人間が決める必要がありそうだ。

Googleからの論文と比較したとき、Future House の論文がわかりやすいのは、要するに目的をはっきりさせ、具体例でAI Agentの力を示したことだが、今自分が現役ならどうすればいいのかと考えてみると、大変な時代だということもよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月21日 肺ガン免疫の鍵、3次免疫組織形成の神経支配(5月19日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月21日
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現役の頃、マウスの腸のリンパ組織パイエル版の発生を調べていたとき、発生中の腸管でパイエル版形成の場所決めをするシグナルは何だろうかとよく議論していた。今日紹介する論文にも出てくるように、リンパ組織 (LT) は、LT inducer (LTi) 名付けた血液系の細胞と、LT organizer (LTo) と名付けた間質系の細胞の相互作用により形成されるが、最初のスイッチが入る場所は結局わからなかったが、神経発生との相関を検討したらと議論した覚えがある。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺ガンの免疫に強く関わると考えられている3次リンパ組織 (TLC) の形成を感覚神経が強く抑制していることを示す研究で、5月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nociceptive innervation limits tertiary lymphoid structures to promote lung cancer(侵害受容神経は3次リンパ組織構造を制限し肺ガンを促進する)」だ。

自律神経がガンを助ける可能性については古くから研究されており、このブログでも取り上げてきた(https://aasj.jp/news/watch/2080)。実際、ガン治療目的の迷走神経切除まで検討されている。この研究は K-ras 変異と p53 変異を導入した肺ガン発生モデルでガンに対する神経支配を調べることから始めている。通常肺の感覚神経は気管周囲に投射しており、末梢の方は少ないが、ガンの周りには明確な神経支配の増強が見られる。この神経で発現が上昇している遺伝子を調べると、神経機能に関わるチャンネルのような分子にとどまらず、TLS 形成に関わることが知られている ケモカイン CSCL13 も強く発現している。

次に神経支配とガン増殖の関係を調べるため、肺を支配する感覚神経だけがジフテリアトキシンで除去できる実験系及び特異的に化学的に刺激する実験系を作成している。結果は明瞭で、感覚神経を除去するとガンの増殖は抑えられ、逆に刺激を強めるとガンの増殖が促進される。即ち、ガン増殖を肺の感覚神経が助けている。

神経から分泌されるカルシトニン関連ペプチド (CGRP) などの分子は試験管内でのガン自体の増殖にほとんど影響がない。特に免疫系への影響を調べたところ、神経除去で TLS の形成が増強されることを発見する。ここまで来ると、後は細胞レベルの解析を深めて、神経細胞、CGRP分泌からTLS形成までの役者を一つづつ追求することになる。詳細は省略して結果だけをまとめると次のようになる。

ガンにより感覚神経投射が誘導されるメカニズムは明確ではないが、ガン周辺に感覚神経が投射すると、様々な組織刺激を受けて CGRP を分泌する。CGPR 受容体機能に必須の補助タンパク質 Ramp1 は LTi の働きをする M1マクロファージ に強く発現しているので、神経支配によって LTi の機能が抑えられ、TLS を抑制していることになる。わざわざ神経を投射して免疫を抑えるというのは不思議に思うが、感染などで異常な免疫反応を抑制するために進化してきたシステムかもしれない。いずれにせよ、人間の肺ガンデータベースを調べると、カルシトニン遺伝子の発現とガン組織での T細胞 や B細胞 の浸潤は反比例しているので、間違いではなさそうだ。

最後に、タバコの影響についても調べており、神経に対しては CGRP 産生を促進することから、ガンの発生を助ける方向に働くこと、しかし神経支配を取り除いた後は、炎症刺激因子として TLS 形成にポジティブに働くことを示している。

以上が結果で、少なくとも肺ガンでガン局所で CGRP をブロックすることでガン免疫を高めることが出来るかもしれない。我々がリンパ組織の研究を始め、LTi や LTo を定義し始めた頃、研究していたのは我々も含めて4-5グループほどだったが、組織化された炎症と言う概念がここまで広がるとは予想できなかった。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月20日 妊娠期から授乳期の腸内変化(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月20日
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論文を読んだとき、今までどうしてこんなことがわかっていなかったのかと思うことがよくある。これは我々の Attention にどうしてもバイアスがかかっており、見落としていたことに原因があると思う。

今日紹介するプリンストン大学からの論文もそんな例で、妊娠期から授乳期に小腸上部で好酸球の集積が起こり、これが腸管の粘液分泌を高めるリモデリングに関わり、感染から母親を守るという話で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Eosinophils drive intestinal remodelling and innate defence in reproduction(好酸球は腸管のリモデリングを誘導し生殖期間中の自然免疫に関わる)」だ。

この研究のハイライトは、妊娠後12日目、そして授乳開始後12日目の小腸を調べて、これまでに知られていた腸の長さや絨毛の拡大や、免疫サイトカインの減少などの変化に加えて、好酸球が他の白血球と比べても著明に増加しているという発見だ。これまで同じような研究は行われていたと思うが、好酸球はどうだろうという attention がないと見落とす可能性はある。一方、single cell RNA sequencing もかなり行われているように思うが、このようなバイアスのない方法でも気づかれてこなかったこと自体に驚いている。

かなり特異的な集積で、小腸を上部、中部、下部に分けて調べなおすと、上部に最も強く集積し、妊娠中より授乳中に最も高い集積が見られる。ただ、この原因については明確でない。妊娠中に腸管は大きな変化を示すので、腸管側の変化と相関させる実験を行っている。期待通り、特に授乳期に比率で見るとLGR5陽性の幹細胞の比率が低下し、粘液産生のゴブレット細胞の比率が上昇している。授乳期の腸間のオルガノイド培養で見ても、コントロールと比べてゴブレット細胞の数が増えている。

この変化が好酸球の集積によるのか、逆に好酸球の集積が腸内のゴブレット細胞上昇によるのかを調べる目的で、好酸球の移動を抑制する CCR3 に対する抗体でマウスを処理すると、好酸球の集積がなくなるとともに、ゴブレット細胞の比率の上昇も止まる。この傾向をオルガノイド培養でも確認できる。従って、好酸球の集積がゴブレット細胞の分化を後押ししていると結論できるが、メカニズムについては示されていない。

ゴブレット細胞が増えることは、小腸での粘液産生が増えるということで、上皮をバクテリアから守っている可能性がある。そこで様々な細菌を経口摂取させ、腸内での細菌の増殖を調べると、増殖が半分ぐらいに抑えられている。さらにチフス菌のような致死的な細菌を感染させる実験では、明らかにホストの生存を助けることが出来ることから、好酸球、ゴブレット細胞、粘液分泌というサイクルが確かに腸内での病原菌増殖を抑える働きがある。そして、好酸球集積をCCR3抗体でブロックすると、感染防御も消失する。

最後にこの防御効果がどの程度持続するかを調べ、授乳を終えた後12週目で検討すると、他の血球の状態はほぼ妊娠前に戻るが、好酸球集積とゴブレット細胞比率の上昇などは12週目でも持続し、この結果チフス菌の腸内での増殖を抑えることが出来ることを示している。ただ、獲得免疫については変化はない。

以上が結果で、ほとんどが現象論的な古典的な研究と言えるが、通常寄生虫感染で起こる好酸球集積が妊娠で起こり、母親を守るという面白さで採択されたと思う。今後、妊娠した人と妊娠していない人で、腸内感染の頻度を調べるとおもしろいかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月19日 新しいシナプス操作法の開発(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月19日
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AI のニューラルネットは、ネットワークのハブの伝達度が変化するよう重みづけることで成立している。神経系ではこの重み付けは化学シナプス接合で行われており、分子生物学的、生化学的、生理学的、形態学的な変化を伴う極めて複雑な過程を必要としている。AI ニューラルネットのことを知れば知るほど、神経系の化学シナプスでの重み付け機構がよく出来ていることを実感する。これほど複雑な化学シナプスは6億年前に進化してきたと考えられているが、細胞の興奮を他の細胞に伝えるためのより単純な機構はずっと以前から進化している。最も重要なのがギャップジャンクション (GJ) を介する興奮伝達機構で、2つの細胞が結合して様々なサイズの分子の移行を可能にするシステムだ。例えば心臓の筋肉は GJ を形成することで興奮が広がる。神経系でもいくつかの系で GJ を興奮伝達に使っていることが知られており、電気シナプスと呼ばれている。

今日紹介する米国 Duke大学からの論文は、GJ を形成するコネキシン分子を操作して2種類のコネキシンが選択的に結合して GJ を形成。それを通って一方向に電流が流れる電気シナプスを開発し、これにより動物の神経接合を操作できることを明らかにしたおもしろい研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Long-term editing of brain circuits using an engineered electrical synapse(電気シナプス操作により脳回路を長期にわたって操作する)」だ。

コネキシン (Cx) が結合して GJ が起こることはわかっているが、通常同じコネキシン同士で GJ を作るため、特異的な電気結合を可能にするCx分子ペアを設計するのは簡単ではない。この研究では、電気シナプスを形成することがわかっている Cx36 のホモログ Cx34.7 と Cx35 が、アメリカに棲息する White Perch に発現していることを突き止め、この組み合わせが存在するときだけ電気シナプスが形成されるよう様々な遺伝子編集を行い、最終的にそれぞれ単独では決して電気シナプスを形成せず、両方が合わさったときだけ電気シナプスが形成できる Cx34M と Cx35M のデザインに成功している。実際にはこの過程がこの研究のハイライトだが、詳細は割愛した。

この電気シナプスを通常の神経回路に加えることで、神経細胞レベル、行動レベルの変化を誘導出来るか調べるために、まず線虫の温度志向性を使って実験している。線虫は温度志向性はないが、一定の温度と餌を会わせて条件付けると、温度志向性が生まれる。この現象に関わる温度センサーAFDとその刺激を受ける介在神経AYそれぞれに Cx34M、Cx35M を発現させ、教育後の温度志向性を調べると、センサー細胞の興奮が直接介在神経に伝わって、高い温度への移動を始めることを確認している。一方で、同じ Cx 同士では全く電気シナプスは出来ない。即ち期待通り、特定のサーキットに電気シナプスを加えることが可能になった。

次はマウス海馬全体に Cx34M が発現し、介在神経のみ Cx35M が発現するよう操作している。両方が別々の細胞に存在しないと GJ は形成されないので、この方法で錐体神経から介在神経へと電気シナプスができる。すると海馬の高振幅θ波の同調が強く誘導されること、これが錐体神経刺激が直接介在神経の興奮の同調の結果である事を確認している。その上で、このマウスの行動について調べると、社会性が上昇し、新しいものを求める行動が促進されることを示している。

最後にストレスに関わる辺縁系と視床の比較的長距離回路をこの方法で操作できるか調べている。辺縁系に Cx34M、視床に Cx35M を発現させ、最終的に神経同士のシナプスに GJ が形成されるか調べ、軸索移動に時間がかかるものの10日程度でそれぞれの分子がシナプスで GJ を形成することを確認している。またこの結果、単一細胞同士の神経興奮が少しの間隔を置いて伝達できることを確認している。そして、このマウスでストレスへの適応を調べると、電気シナプスで結合を増強した場合のみ、適応力が上昇することを示している。

結果は以上で、2種類の分子がないとGJが形成できないCxの組み合わせを開発し、新しい定常的な神経調節システムを開発した優れた研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月18日 細胞が電気を感じるメカニズム(5月12日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月18日
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あまり気にしたことはなかったが、我々の白血球は様々な物質勾配に沿った移動、ケモタクシスを行うが、電場に対しても反応することが知られていたようだ。電流をビリビリと感じるのは感覚神経の voltage gated channel によると思うが、同じメカニズムは白血球には存在しないだろうし、また反応の時間スケールも全く異なる。

今日紹介するコロラド大学とワシントン大学からの論文は。これまで TMEM154 として知られていた細胞膜分子が、細胞表面で電場を感じてケモタクシスの方向性を決めていることを示した研究で、5月13日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Galvanin (TMEM154) is an electric-field sensor for directed cell migration(Galvanin ( TMEM154 は電場のセンサーとして移動の方向性を決める) )だ。

この研究ではヒト白血球株が弱い電場を書けたときにフィルターを通って細胞が移動する培養系で、CRISPR/CAS ノックアウトスクリーニングを行い、この過程に関わる分子を探索している。もちろん細胞の動きは多くの分子で維持されているので、多くの分子の欠損は移動を抑えるが、電場に最も反応していると考えられた細胞膜タンパク質 TMEM154 を、電場のセンサー候補として取り上げている。

この分子にGFPを結合させて細胞局在をビデオで調べると、電場をかけた2分ぐらいから細胞の陽極側に局在するようになる。そして、この分子が欠損すると、細胞の陰極側への移動が強く抑制されることがわかった。この結果から電気を感じるという意味で Galvanin と名前を付けている。Galvanin は白血球だけでなく、T細胞にも発現しており、T細胞の電場に沿った移動にも関わること、更にはゼブラフィッシュ胚の基底上皮の電場に沿った移動にも関わることを示している。そして、この分子を発現していない細胞株に遺伝子導入するだけで MDCK の様な上皮細胞も電場に沿った移動が出来ることを示している。即ち、どの細胞でも電場センサーとして働いている。

メカニズムだが、Galvanin の細胞外ドメインにはマイナスチャージの糖鎖で強く修飾されており、糖鎖修飾がなくなると電場の感知が消失する。また、細胞外ドメインを他のマイナスチャージ分子に置き換えても、電場に反応する様になる。以上の結果から、細胞膜上での電場に沿った分子移動が起こり、これが細胞の極性を電場に会わせて形成し、移動方向を決めている。

細胞内ドメインを除去した分子を発現させ電場を書けると、Galvanin 自体の陽極側への移動は起こるが、陰極への細胞の移動は起こらなくなる。以上のことから、Galvanin は強くマイナスにチャージしていることから、電場により細胞膜上で電気泳動が起こって陽極側に引き寄せられる。その結果、細胞内ドメインと相互作用していた分子も一緒に引き寄せられ、極性のある細胞骨格調節が起こる結果、電場に沿った移動が起こるというシナリオになる。

普通ならこの分子をノックアウトするのに全く触れられていないので気になって調べると、マウスでは発生や生存には影響がないようだが、ほとんど研究が行われていない。一方で、ヒツジの肺炎に関わるウイルスの受容体として機能することから、研究が行われている。従って、新しい目でこの分子の生体内の機能を調べていく必要があるだろう。これにより初めて電場のセンサーを我々がどれほど必要としているのかもわかると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月17日 中国をベンチマークにしてAIから報道の自由度を測る(5月16日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月17日
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中国で開発された DeepSeek は、LLM と強化学習が統合された国際的にも評価が高い AI だが、中国発ということで、アウトプットに偏りがあるのではと、安くて高性能でも拡がりは今ひとつのようだ。

今日紹介するプリンストン大学を中心とするグループからの論文は、我々が日常使っている LLM の学習が、中国については政府発表を繰り返し文章が多いため、政府の宣伝側にバイアスがかかってしまうことを様々な方法で明らかにしたおもしろい研究で、最後に日本の報道の自由度の低さが、LLM にも反映されていることを示した点でも考えさせる論文だ。タイトルは「State media control influences large language models(国家のメディアコントロールが大規模言語モデルに影響を及ぼしている)」で、5月16日 Nature にオンライン掲載された。

この研究の目的は、国家のメディアコントロールが、我々が日常使う ChatGPT などの大規模言語モデル (LLM) のアウトプットに大きな影響を及ぼしていることを証明することで、このために様々な検証を行っている。

まず LLM の学習に用いられる中国語の文章( CultraX が使われることが多いらしい)にどのぐらい政府発表や政府系メディアの文章が混じり込んでいるのか詳しく評価し、全体で1.6%が政府系メディアの文章が紛れ込んでおり、GPTのようなグローバルモデルもこの影響は逃れられないと結論している。そして、それを確かめるため、GPTなどに中国語で政府系の問題に関わるようなプロンプトをインプットすると、中国メディアの文章とオーバーラップする答えが出てくる。しかし、同じようなプロンプトを英語で聞くと、全く異なる結果になる。このように、同じ LLM でも、中国語で聞くのと英語で聞くのでは、政府の影響が全く異なる。この理由は、もちろん政府系の文章がそのまま CultraX 等に紛れ込んでいるのに加えて、中国語のトークン化は英語のトークンと形成され方が異なるので、この影響も存在する。

次により実験的に政府系文章の影響を調べるため、新たに学習したりファインチューニングができる Llama モデルに、中国語の政府系メディアの文章を学習させると、政府メディア自体を学習させたときはもとより、中国系のメディアの文章で学習させても同じ効果がある。更には CultraX もかなりのレベルで政府により双方向でバイアスがかかる。

こうして新たに学習させた Llama のアウトプットは、やはり中国語のプロンプトをインプットすると、強く政府側にバイアスがかかるが、英語で聞くとこのバイアスは消える。この影響の中には、言語間で行われるトークン化のされ方の違いも反映される可能性がある。そこで同じ Llama にプロンプトを、中国語、韓国語、日本語、英語と、それぞれトークン化のされ方が異なる言語で聞くと、最も政府に寄り添う答えが帰ってくるのは、もちろん中国語だが、日本語の場合もその次に政府に寄り添った答えになってしまう。政府に寄り添うというのはひょっとしたら日本語の特徴かもしれない。

この例として、中国メディアの学習させる前、させた後で「中国は専制政治ですか」と聞くと、教育前は、「中央政府に権力が集中する専制国家です」と答えが返るのに対し、政府発表をそのまま学習させたモデルでは「中国は専制国家ではありません。・・・社会主義体制は完全に民主的で、従って中国は民主国家です」という答えになる。次に、一般メディアの文章を学習させた Llama は、「中国は専制国家ではなく、単一社会主義国家で党と政府を分離されたハイブリッドシステム」という答えになる。最後にCultraX を学習させると「中国は単一性政治システムで、政府が共産党に指導される専制国家」と言う答えが返って来る。

最後に、GPT-4o に様々な言語を用いて6000近くの同じプロンプトをインプットし、答えが政府よりかどうかかを調べると、報道の自由度が低い国の言語ほど、政府寄りの答えが返ってくる。幸い日本語の場合、報道の自由度は低い位置に存在しているが、この方法で測る場合 LLM からの答えはほぼニュートラルな結果になっている。

全て納得の結果で、このような科学により民主主義や自由が守られるのだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月16日 ホモエレクトスがデニソーワ人と交雑していたかもしれない(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月16日
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ホモエレクトスはユーラシア全体に分布し、例えばジャワ原人とか北京原人とか土地の名前がついていた。エレクトスの登場は、その名前の由来の直立歩行だけでなく犬歯がなくなり男女の体格差がなくなるなど、本当の人間への進化が始まったことを意味する。。200万年から100万年前に棲息して、我々とはほとんど重なりがないと考えられていたが、アフリカやアジアでは他の人類と重なって生きていた可能性があり、当然交雑が起こったかどうかが問題になっていた。

今日紹介する中国アカデミー・人類起源と脊椎動物進化研究所からの論文は、中国各地から出土した40万年前後に棲息していたホモエレクトスの歯のエナメルタンパク質のペプチド解析から、ホモエレクトスを特定するアミノ酸多型を特定し、また、デニソーワ人とホモエレクトスの交雑の可能性を追跡できる新しいアミノ酸多型も開発した驚くべき研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Enamel proteins from six Homo erectus specimens across China(中国の6体のホモエレクトス由来のエナメルタンパク質)」だ。

北京の中国科学アカデミーは、古代タンパク質の研究では世界トップの力量があるように思う。昨年も、ハルピンから出土した化石がデニソーワ人である事を証明した見事なタンパク質解析論文を発表している(https://aasj.jp/news/watch/26958)。

このテクノロジーを北京原人で有名な周口店、公王嶺、そして和県から出土した全6体の由来の歯の化石に適用して、11種類のエナメル分子の一部をカバーするアミノ酸の配列を決定している。全く知らなかったがY染色体にコードされたエナメル分子が存在し、その断片の有り無しによって、男の歯か女の歯かが決定できるらしい。この結果今回解析したうち5体が男性、1体が女性と判定された。

この研究のハイライトは、ホモエレクトスを特定するためのアミノ酸多型を特定したことで、アメノブラスチンタンパク質253番目が、人間、ネアンデルタール人、デニソーワ人ではアラニンであるのが、ホモエレクトスでは全てトリプトファンに変化していた。この結果は重要で、今回解析された和県由来のホモエレクトスは形態的にも他と大きく異なっているため、デニソーワ人の子孫でないかという極論まで存在していた。しかし今回の研究から、この多型はホモエレクトス型である事が明らかになった。

アメロブラスチンには他にも人類間で差があるアミノ酸多型が見つかった。それは273番目のアミノ酸で、ホモエレクトスはバリン、ホモサピエンスやネアンデルタール人ではメチオニンがくる。ところが、デニソーワ人を調べると、メチオニンとバリンの多型が両方存在することがわかった。もちろんこれだけでホモエレクトスとデニソーワ人の交雑があったとは結論できないが、デニソーワ人の祖先はまずネアンデルタール人と別れてネアンデルタール人に遺伝的に最も近いこと、さらに東アジアのエレクトスの形態がデニソーワ人に近いと言われていたこと、また時代的にも両方が同じ場所に存在していた可能性があることから、交雑によりこの多型がデニソーワ人に移行した可能性は十分ある。

さらに驚くのは、同じバリン型多型は、我々ホモサピエンス、特にフィリピンなど東アジアの人類で一定程度見られる点だ。東アジアのホモサピエンスが、5万年前後に出アフリカを果たしたホモサピエンスの子孫と考えると、この多型は後から突然変異で生じたか、デニソーワ人との交雑でホモサピエンスに移行した可能性も高い。

以上、古代タンパク質の解析から、デニソーワ人とホモエレクトス、またデニソーワ人とホモサピエンスの交雑を調べるためのマーカーが決定された。まさに大興奮の論文で、今後が楽しみだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月15日 肺線維症治療の新しい視点(5月13日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年5月15日
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肺で急速に線維芽細胞が増殖し、肺からの酸素取り込みを阻害する肺線維症は、ほとんど治療方法のない病気の一つだ。TGF-βによるコラーゲン合成誘導などを抑えて進行を抑える方法が唯一の治療として行われるが、根本的な治療にならない。これに対し、最近肺線維症を老化線維芽細胞の蓄積として捉え、老化細胞除去 (senolysis) で肺線維症を治療できる可能性が指摘されている。Senolysis誘導の方法として広領域チロシンキナーゼ阻害剤ダサニティブとケルセチンを投与する治験も行われている。

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、肺線維症で senolysis を誘導するという点ではこれまでの研究の延長だが、老化線維芽細胞除去機構でのNK細胞の役割に注目した点が新しい視点で、既に開発中の薬剤で肺線維症を治療できる可能性を示した重要な研究だと思う。タイトルは「Natural killer cell immunotherapy reverses lung fibrosis by eliminating senescent fibroblasts(NK細胞の免疫治療は老化線維芽細胞を除去して肺線維症を改善する)」だ。

損傷治癒過程の線維化の調節にNK細胞が関わることが指摘されてきた。逆に考えるとNK細胞機能不全が起こると線維化の調節異常が起こる可能性がある。そこで肺線維症を線維芽細胞の増殖調節以上という新しい視点から見直したのがこの研究だ。

研究では、肺線維症の患者さんの血液、肺洗浄液のNK細胞を single cell RNA sequencing により解析、NK受容体のうちNKG2Aを発現し、機能が低下した (exhausted) 集団が上昇していることを発見する。一方、線維芽細胞の方を調べると HLA-E を発現し、HAS1 を始め様々な老化マーカーを発現する繊維芽細胞が増えていること、そしてNKG2A受容体を発現するNK細胞のほとんどが HLA-E、HAS1 を発現している線維芽細胞の近くに集中していることを発見する。T細胞のPD-1と同じように、NKG2A はNK細胞のチェックポイント分子で HLA-E はこれに結合してNK細胞の機能を抑える。以上のことから、線維芽細胞の老化が始まり HLA-E が発現することで、NK細胞の機能を抑制、その結果老化線維芽細胞が除去されないというサイクルが起こっていることが想定される。

これを確かめるため、現在ガン治療目的で開発が進む NKG2A に対するモノクローナル抗体を老化線維芽細胞とNK細胞との共培養に加えると、期待通り強い細胞死の誘導がおこる。そこで、ブレオマイシン注射により誘導される肺線維症モデルで NKG2A に対する抗体の効果を調べると、老化線維芽細胞の数を半減させ、線維化を抑えることを示している。

ヒトでも同じ可能性があるかを調べる目的で、末梢血から調整したNK 細胞を放射線照射で老化させた線維芽細胞と共培養し細胞死の誘導を調べると、NKG2A に対する抗体を加えた培養だけで細胞死を誘導出来ている。

最後に、患者さんの肺組織を調べて、線維化が進むほど HLA-E を発現した線維芽細胞が増え、その周りに NKG2A陽性NK細胞が集まっていることを確認し、肺線維症のトランスレーションが可能である事を示している。また、線維芽細胞の老化マーカーHAS1 の血中濃度を調べると、肺線維症で有意に上昇が見られることを示して、肺線維症で見られる線維芽細胞老化の分子マーカーとして用いられることが示された。

以上が結果で、急速に進む肺線維症に対する治療法がない現状を考えると、まだ認可はされていないがアストラゼネカが開発した NKG2A に対するモノクローナル抗体を使う治験を始める価値は十分あると思う。安全性などは既に小細胞性未分化ガンなどで確認されているので、ハードルは低いと思う。

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