SLEは、DNAや様々な核内タンパク質に対する自己抗体を特徴とし、全身の臓器が傷害される自己免疫疾患だが、まだまだ謎が多い。間違いなく自己に対するT細胞も反応していると考えられ、例えば活性化されたトランスポゾン抗原などが抗原として報告されているが、T細胞反応を誘導するペプチドの特定は病態理解のために必須だ。
今日紹介するワシントン大学からの論文はSLEの白血球で特異的に見られるスプライシング異常によって生成される、ネオ抗原ペプチドがSLのT細胞反応の重要な抗原として働いていることを示す研究で、10月28日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「T and B cells recognize splicing-derived neutrophil neoantigens in lupus( SLEの好中球のスプライシング異常により生成されるネオ抗原はT細胞とB細胞により認識される)」だ。
タイトルにあるネオ抗原という言葉は、このブログでもガン免疫を誘導する抗原として紹介してきた。ガンで起こる様々な変異は、自己のタンパク質とは異なる外来抗原として認識され、ガン免疫誘導には必須の要因だ。一方、自己免疫と言うときは変異のない自己抗原が免疫反応を誘導すると考えており、変異を持つネオ抗原の生成は考慮されてこなかった。
この研究では、一種の研究のカンで、SLEで異常が起こりやすい好中球でスプライシングの異常が起こることで、通常存在しない遺伝子配列が生成され、これが抗原として免疫反応を誘導するのではと狙いを付けて、SLE患者さんから好中球を集めRNAシークエンスを元に、スプライシング異常、即ち本来ならスプライシングのシグナルにならない配列を間違ってスプライシングシグナルと認識してしまって発生する異常RNAを探索した。
結果は予想以上と言って良く、SLEの好中球だけでスプライス異常によるネオ抗原を生成できるmRNAが生成されていることがわかった。スプライシングは300近いタンパク質で調節されているが、何らかのきっかけでSLEでは好中球でスプライシング分子の発現異常が起こることがわかった。同じような異常はリューマチ性関節炎でも全く見られないことから、かなりSLE特異的と考えられるが、この点についてはこれからの研究が必要になる。
重要なのは、この異常は決まった異常mRNAを合成するのではなく、細胞ごとに、それもその時々でランダムに様々な異常mRNAが合成されることだ。また異常が起こる遺伝子の多くはインターフェロンで誘導されるものが多いが、それ以外の遺伝子でも起こる。そして出来てくるペプチドはT細胞抗原として十分働きうる長さのペプチドが造られることがわかった。
いくつかの遺伝子については、どの配列がスプライシングシグナルとして認識され、どのような新しいペプチドが産生されるのかも確かめている。またこれらがT細胞を刺激するネオ抗原ペプチドとして働いている可能性をさらに調べるために、SLE患者さんの好中球からMHC分子を生成し、これに結合しているペプチドの配列を解析して、RNA配列から予想される新しいペプチドの一部がMHCと結合していることを明らかにし、スプライス異常で発生したペプチドの持つネオ抗原がSLEでT細胞を刺激する可能性を示している。ここまでの過程をGPTにイラストとしてまとめさせると以下のようになる。

実際に起こっているスプライス異常は図のような単純なものではなく、様々なタイプのスプライシング異常が起こっているが割愛する。
そしてこれらのネオ抗原に反応するT細胞が増殖し機能している証拠を、患者さんからのT細胞を、いくつか選んだネオ抗原ペプチドに対する反応を指標に確認している。結果はインターフェロンの活動が高いSLE患者さんで特にT細胞の反応が認められること、またCD8, CD4T細胞とも反応していることを確認している。そして、CD8T細胞がキラー細胞として、好中球に作用している証拠も示している。
この研究では、T細胞反応だけでなく、スプライス異常で発生したペプチドに対して、自己抗体も検出できることも示して、スプライシング異常によるネオ抗原発生がSLEの自己免疫反応の最も重要な背景にあると結論している。
SLEの場合遺伝子変異は必要無いので、ガンのネオ抗原とは少し違うが、しかし自己ゲノムから免疫系の経験したことのない抗原が産生されるという点でネオ抗原と言ってもいいだろう。ただ、このメカニズムがSLE発症のどの位置にあるのかは今後の研究が必要だと思う。是非追求していってほしいアイデアだ。
