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Scienceが選んだ今年のブレークスルー10選

2019年12月21日
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昨日のNatureの選んだ今年のサイエンスニュースに続いて、今日はScienceの選んだ今年のブレークスルーを紹介する。今回は、個人的感想も加えた。

  1. ブラックホールのイメージ 今年の4月、ブラックホールのイメージを捉えたと言うニュースは世界中を駆け巡った。論文はオープンアクセスなので(https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab0ec7)この写真を自由に閲覧することができる。見ることは信じることを絵に描いたような論文だが、どう撮影されたのかは天文学者に聞いてほしい。
  2. Deep impact過程の解明  今年10月Nature (574:242)に発表された研究は、ユカタン半島沿岸で今は海の下に眠る、6千6百万年前に起きた隕石衝突のインパクトを、ボーリングによって採取したコアに含まれるプランクトン解析により詳しく調べた研究。その時起きた津波でほとんどの生物が消滅した様子や、その後気温が急速に低下する様子が手に取るようにわかる。そして、千年もしないうちに植物が現れ、70万年後には哺乳動物が現れるなど、急速な回復が見られた。とはいえ、こんなことが今起きたら大変だ。
  3. デニソーワ人の解明が進む  このトピックスについてはAASJでも力を入れて紹介し、YouTubeで解説も配信したので、そちらを参照してほしい(https://www.youtube.com/watch?v=ngzOlfES7m4)。今年は重要なブレークスルーが数多くあったが、その中から2編の論文が選ばれている。一つは、これまで出自の明らかでなかったチベット出土の骨格がコラーゲン解析からデニソーワ人と特定されたことで、今後同じ地域から出土した骨の解析から、急速に骨格が明らかになると期待される(https://aasj.jp/news/watch/10139)。もう一つは、実際の骨格が明らかになる前にそれを予想しようとしたイスラエルの研究で、インフォーマティックスを駆使して骨格を予測する論文をCellに発表した(https://aasj.jp/news/watch/11407)。予測が当たっているか、すぐに明らかになると思う。
  4. エボラウイルス感染症の克服  最近HPで紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/11936)、2種類の新しいモノクローナル抗体薬は、感染初期であれば、9割の患者さんを救えるという治験結果がThe New England Journal of Medicineに発表された。
  5. 量子コンピュータ  今年10月GoogleのチームがNatureに量子コンピュータに必要な条件をクリアしたと発表した(これはオープンアクセスなので興味のある人は読んでほしい*https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5)。ただすかさずIBMからのクレームがついたようだが、今後世界各国で開発競争は加速すると思う。私が以前アドバイザーとして関わった京都大学白眉プロジェクトでもこのテーマに取り組む若手研究者がいたが、我が国の現状はどうなのか、正確なレポートがほしい。
  6.  真核生物の起源Asgardの培養 我が国からは産総研からの論文が選ばれた。(オープンアクセスなので興味のある人は直接読んでほしい:https://www.biorxiv.org/content/10.1101/726976v2)。嬉しいことに、真核生物進化に関する重要な貢献だ。真核生物は古細菌から進化したと推察されているが、その後深海のメタゲノム解析からより真核生物に近いAsgardの存在が知られるようになった。しかし、これはゲノムだけの話で、本当に存在するかどうかは明らかでなかった。産総研のチームは深海の沈殿物の培養にチャレンジし、十二年かけてついに生きたAsgardsと言える生物を単離することに成功した。古細菌と比べて多くの真核生物特異的と考えられていた分子や構造を有しており、将来、真核生物の進化を試験管内で再現することが可能になるかもしれない。
  7. 星の融合が捕らえられた  NASAのNew Horisonが海王星の向こうのカイパーベルトから送ってきた映像は、説明するより見てもらったほうが早いが(http://pluto.jhuapl.edu/News-Center/News-Article.php?page=20190222 、2つの星がこれから融合する有様を捉えていると考えられる。
  8. 嚢胞性線維症の治療薬の開発  遺伝病というと、治療には細胞や遺伝子自体が必要だと考えるが、嚢胞性線維症については、変異を持つクロライドチャンネルの機能を補完する薬剤の開発が進み、今年になってほぼ9割の患者さんの治療が可能になった(HPの記事を参照:https://aasj.jp/news/watch/11671)。しかし、同時に1年間の治療コストが3000万円を超えることも明らかになり、新たな問題を提起している。
  9. 栄養失調に関わる腸内細菌叢 J.Gordonのグループは栄養や代謝と腸内細菌叢の関係についての研究のトップグループだが、バングラデッシュでのフィールドワークで栄養失調を抑える腸内細菌を特定し、これを指標に腸内細菌叢を成長させ栄養失調を防ぐ食事の開発に成功した。食品の開発についてはHPで紹介しているので参照してほしい(https://aasj.jp/news/watch/10582)。科学で貧困に立ち向かうこのグループの活動にはいつも頭がさがる。
  10. AIギャンブラー 一年前AIギャンブラーというタイトルで、Libratusと名付けたAIが、論理だけでは割り切れないギャンブル、ポーカーに勝てることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7990)。同じno-limit Texas holdsゲームだが、今年はFacebookが開発したPluribusと名付けられたソフトが、ポーカーのトッププレーヤーを打ち負かすことができたという論文が発表された(Science 365,885)。AIは碁や将棋のような対面ゲームだけでなく、複数を同時に相手にするゲームでも勝てることを示し、AIが単純な論理アルゴリズムとは異なることを示した(と私は思っている)。
  1. 山形方人 より:

    あまりメジャーではありませんが、少し玄人向けのものとして、The ScientistのThe Science News that Shaped 2019というのが良い感じだと思いました。スキャンダルネタも含まれていますが、科学面でも先生が既に紹介されたもの、まだされてないものなどあるように思います。
    https://www.the-scientist.com/news-opinion/the-science-news-that-shaped-2019-66872

    少し違った観点では、Altmetricのランキングも欧米では結構話題になっていると思います。
    https://www.altmetric.com/top100/2019/

    いずれにしても、科学におけるポピュリズムみたいなものを、どう捉えていくのか、というのは、科学に関心があるものとしては注意が必要のように思います。

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