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6月14日 サルに音楽はわからない(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2019年6月14日
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2016年の正月このブログで「サルも音楽がわかる」という論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4655)。 そして今日、サルには音楽がわからないというブログを書いているが、矛盾しているぞなどと言わずに、このまま読み進めてほしい。最後に、なぜ矛盾する結論になるのか、私の弁明も述べるつもりだ。

今日紹介するコロンビア大学のZuckerman研究所からの論文はサルにはハーモニーを持つ音階の認識ができないという研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Divergence in the functional organization of human and macaque auditory cortex revealed by fMRI responses to harmonic tones(人間とサルの聴覚皮質の機能的構成の違いがハーモニーを持つ音に対する機能的MRIの反応からわかる)」だ。

この研究ではヒトとアカゲザルに、ハーモニーを持つ様々な音階の音、およびピッチを合わせたノイズを聞かせて、脳の聴覚野の反応を機能的MRIで記録している。

アカゲザルもヒトもハーモニーを持たせた、ピッチの異なる音に反応するが、高いピッチと低いピッチに対する反応する領域分布はアカゲザルの方が複雑だ。次にハーモニーを持った音と、ピッチは同じだがハーモニーのないノイズを聞かせ、ハーモニーとノイズを区別する能力を調べると、サルではハーモニーのある音も、ノイズもあまり区別できない。この傾向は調べる領域を絞ってみたときにもはっきり確認でき、ヒトではハーモニーを持つ音に強く反応するのに、サルはノイズとハーモニーのある音に対する反応にはっきりした差はなく、逆に場所によってはノイズの方により強く反応する場所も見られる。

これらの実験では全てシンセサイザーによる合成音を用いているので、人間は慣れていても、サルは慣れていないためノイズとの差が出ない可能性がある。そこで、元の音をサルの27種類の鳴き声から合成し、様々なピッチの鳴き声とノイズとの区別ができているか調べている。サルも人間も鳴き声に反応する領域が存在するが、サルの場合はその領域も同じピッチのノイズに対する反応との差が大きくない。

以上の結果から、人間もサルも音のピッチの差を認識することはできるが、ハーモニーや声のような音の複雑なニュアンスを認識できないと結論している。

では2016年に紹介したマーモセットが人間と同じような音のピッチの変化を感知する能力があるという論文はどう考えればいいのか。このピッチのズレを感じる能力の中には、ハーモニーの乱れを感知する能力も含まれている。

これは私が考えているだけだが、2016年の論文は、ピッチのズレを感じたらレバーを押すよう訓練して認識できているかどうかを確かめている。一方、今回の論文は脳の反応を確かめただけで、それを認識できているのかどうかはわからない。おそらく、認識するという行為と脳の反応との両方を測定する研究が、この違いを説明するためには必要だろう。いずれにせよ、サルにわかるかどうかではなく、音楽とは何かを私たちはまだ解明できていない。

私のブログを音楽で検索すると33編の論文が出てくるが、人間の脳科学は着実に進んでいる。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    音楽とは何かを私たちはまだ解明できていない

    歴史的には、音楽を科学的に研究した最初の人物は、あのピタゴラス。宗教的哲学の祖プラトンに絶大な影響を与えた人物。プラトン哲学を人々に伝道する時にも、心に響く音階は大いに威力を発揮したと思われます。数論、幾何学とともに。

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