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10月4日 非感染者のCoV2に対する交差T細胞記憶を証明する(10月2日号 Science 掲載論文)

2020年10月4日
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新型コロナウイルス(CoV2)に関する研究、特に免疫反応に関する研究は結論と仮説が先行していることが多い。もちろん、まず現象から示して、そこから出てきた可能性を順に検証していくことが重要だが、なかなかそのような研究にはお目にかかれない。

そんな中で7月15日このブログで紹介したLa Jolla免疫研究所のグループは、ウイルスタンパク質から推定される抗原ペプチドを全て合成して、ほぼ全ての組織適合抗原をカバーした上で、個々人のCoV2に対するT細胞反応を調べた研究(https://aasj.jp/news/watch/13531)を発表して以降も、この時可能性として示した様々な可能性をさらに厳密に検証する研究を続けている。今日紹介する論文は、新型コロナウイルスに対する免疫記憶が、他のコロナウイルス感染により成立しているかどうか調べた研究で、10月2日号のScienceに掲載された。タイトルは「Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans (非感染者のT細胞が認識する選択的交差反応的CoV2エピトープ)」だ。

抗原ペプチドプールを用いたこのグループの論文をきっかけに、新型コロナウイルス感染前から、他のウイルスとの共通抗原に対する記憶T細胞が存在する可能性を示唆する論文が続いている。しかし、本当に免疫記憶が存在するという証明を行うことは簡単ではない。この研究では、これを人間という、過去の感染経緯が複雑で、しかも遺伝的に多様な集団を用いて証明できるかの一点に絞って研究を計画している。

そのために、非感染者サンプルを2015年から2018年に保存されている血液を用いることで、間違って無症状の感染者が紛れこむことを避けるという徹底ぶりだ。また、記憶と新型コロナ症状との関係を問題にせず、T細胞記憶の存在一点に絞るため、CD4T細胞を刺激するペプチドの大きさ15merに絞り、CD8T細胞反応を誘導する10merに関しては捨てている。

また血液をペプチドで2週間刺激した後反応細胞を調べることで、少ない記憶細胞を特異的に測定する方法を用いている。この方法を用いてCD4T 細胞を刺激できるペプチドプールの中から、最終的にCD4T細胞反応をモニターする142種類のエピトープを決定し、非感染者のT細胞反応素調べると、反応を検出できることがわかった。

次に、Cov2と他のコロナウイルス(HCov)のゲノムの比較から、共通抗原になりうるペプチドプールをそれぞれHCovとCov2から選び出し、それぞれに対する反応を調べると、非感染者でもこれらのペプチドプールに対する反応が見られ、しかも新型コロナウイルス感染によりHCovのプールに対する反応も上昇することを示している。すなわち、コロナウイルス感染により、HCovペプチド反応性のCD4T細胞が確かに上昇してくることを明瞭に示した。

さらに、反応細胞の細胞表面形質から、非感染者でペプチドプールに反応する細胞のほぼ全てが記憶細胞であることも示している。

さらに進んで、この研究では非感染者から記憶T細胞株を分離することすら試みている。長期間維持しているわけではないが、分離したいくつかのクローンについて様々なペプチド抗原に対する反応を調べ、全てがCov2とHCovの相同領域から作成したペプチドに反応していることを示している。すなわち、配列が同じでなくても相同領域のペプチドであれば交差反応が検出できることを示している。驚くことに、非感染者由来であるのに、Cov2由来ペプチドによりよく反応するメモリーT細胞クローンすら存在する。

この交差反応を誘導するペプチドの相同性から、大体67%の相同性があれば、交差反応性が生じる可能性があることを示している。

免疫記憶を人間でこのレベルまで解析できるのかと本当に感心する、執念を感じる研究だと思う。

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