AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月27日 Covid-19ワクチンの副反応3: チェックポイント治療中のファイザーワクチン接種によるサイトカインストーム発症 (5月26日号 Nature Medicine 掲載論文)

5月27日 Covid-19ワクチンの副反応3: チェックポイント治療中のファイザーワクチン接種によるサイトカインストーム発症 (5月26日号 Nature Medicine 掲載論文)

2021年5月27日
SNSシェア

AASJでは新型コロナワクチンの副反応論文については、できるだけ紹介していきます。

今回は、RNAワクチンによるアナフィラキシーに関する論文(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/15439)、そしてアストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのアデノウイルスワクチン接種後の血栓性血小板減少症のメカニズムとその治療についての論文(https://aasj.jp/news/watch/15740)、に続いて3回目になる。

これらの記事から、アデノウイルスワクチンに関しては無視できない数の死亡例が発生したが、現在では対処方法も確立していることがわかっていただいたと思う。

このとき紹介した論文は、アデノウイルスワクチンの何かが、ヘパリンと同じようにPF4を凝集させ自己抗体を誘導するとする仮説に立っていた。

ところが昨日、フランクフルト大学から査読前の論文がResearch Squareに掲載され、

なんと、アデノウイルスがコードするスパイクDNAがスプライシングを受けてしまって、スパイクタンパク質が細胞外に分泌され、その後誘導されるスパイクに対する抗体がACE2を発現した血管内皮上で血栓を誘導すると提案している。当然この問題はmRNAワクチンには存在しない。

これまで血栓を起こした症例ではPF4/ヘパリンに対する自己抗体が検出されているが、このグループは、PF4に対する自己抗体は、ワクチン接種とは独立に存在すると考えており、例えば心臓の手術後にPF4自己抗体ができることを考えると、分泌されたスパイクに対する自己抗体と共同して稀な血栓症を起こす可能性は十分ある。まだ査読前だが、このレベルの研究がこのスピードで発表されるのは、全世界の研究者がCovid-19に立ち向かっていることがよくわかる。

一方、mRNAワクチンについても、気になる副反応論文が英国フランシスクリック研究所からNature Medicineに昨日報告された。

タイトルを訳すと、「大腸直腸癌の患者さんがBTN162b2ワクチン接種後に発症したサイトカイン遊離症候群」になる。このサイトカイン遊離症候群とは、Covid-19の重症例で有名になったサイトカインストームとほぼ同じと考えてもらっていい。すなわち、急に様々なサイトカインが血中に流れ出し、様々な全身症状を示す。

現在、ガン患者さんはCovid-19のハイリスクグループとして、ワクチン接種が望ましいとされている。私も乳ガン治療中の妹にも接種を勧めたし、これまで膨大な数のガン患者さんがファイザー/ビオンテックワクチンを受けていると思うが、重大な問題が報告されたのは、アナフィラキシー以外には知らない。もちろん、サイトカインストームがワクチンで起こるとことも想像できなかった。

しかし報告を読んでみると、この患者さんは転移性の大腸直腸ガンの治療のため、2019年からPD-1に対する抗体投与を続けている。このチェックポイント治療は、ガン抗原に対するT細胞免疫を強める治療だが、ガンに特異的ではない。ワクチンに対する抗原に反応して、強いサイトカイン反応が誘導される可能性も納得できる。

この患者さんでは、一回目のワクチン接種後(接種時には軽い炎症で止まっている)5日目、全身の筋肉痛、下痢、そして38.4°Cの発熱がおこり、すぐに入院。Covid-19感染可能性を含む様々な可能性を調べる検査の後、入院後5日目にサイトカインストームと診断が下り、メチルプレドニン静脈注射を開始、症状は急速に改善して、治療開始後7日で退院している。

ワクチン接種後5日目という、免疫反応が起こる時期と一致しているため、当然スパイクに対するT細胞がサイトカインを遊離しているのではと疑い末梢血のT細胞の反応を調べているが、抗体は上昇し続けているにもかかわらず、T細胞の反応は認められていない。

しかし、mRNAワクチンの場合、すぐに所属リンパ節に抗原が移行し、そこで強いT細胞反応が誘導されるので、リンパ節のT細胞を調べないと、サイトカインストームがスパイクに対するT細胞によるかどうかは、末梢血のT細胞を調べるだけでは結論できない。

いずれにせよ、接種後すぐにおこるアナフィラキシーだけでなく、免疫反応が上昇し始める時期に見られるサイトカインストームが起こる可能性も考慮しておく必要があるというのがこの論文のメッセージだ。

しかし、プレドニンの静脈注射で十分対応できるレベルのサイトカインストームと言っていいので、心配は無用だろう。これほど迅速な研究が進んでおり、主治医は必ず可能性を頭に入れておく必要がある。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.