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6月23日 中心体を通してしか見えない世界(6月17日 Science 掲載論文)

2022年6月23日
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できる限り分野を広げて論文を読もうと思ってはいるが、偏りが出ることは否めない。従って、一定間隔で面白い論文に当たって頭の中をアップデートする必要がある。でないと、どうしてもその分野から遠ざかることになる。そんな一つの領域が中心体(Centrosome)だが、この知識をアップデートするためにミュンヘンのヘルムホルツセンターのMagdalena Götzラボからの論文は最適だ。特に神経発生学の深い知識の中で中心体を見ている点で、専門外にもとっつきやすく、多くの学びがある。3年前彼女のラボからの論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/9768)、今日紹介する6月17日号のScienceに掲載された論文は、中心体からしか見られない新しい世界を教えてくれる面白い論文だ。タイトルは「Spatial centrosome proteome of human neural cells uncovers disease-relevant heterogeneity(ヒト神経細胞の中心体に集まる蛋白質の解析から疾患に関わる多様性を見ることが出来る)」だ。

中心体はどうしても微小管オーガナイザーとして見てしまい、細胞種によりそれほど大きな違いはないと思ってしまうが、この研究の最初の疑問は、「中心体に集まる蛋白質に、細胞の機能に応じた違いはないのか?」だ。このために、ヒトiPSから神経幹細胞、さらには神経細胞を誘導し、それぞれから中心体に集まる蛋白質を特殊な方法で探索している。その方法は、中心体の必須蛋白質10個を選び、これと相互作用する蛋白質を精製する方法で、つまり一種の蛋白質を餌として食いつく蛋白質を釣り上げるフィッシングのような方法だ。例えば中心体の真ん中に位置するCEP63を餌にすると、神経幹細胞では233種類、神経細胞では529種類の蛋白質が釣れてくる。

重要なことは、こうして釣れてくる分子は、神経幹細胞と神経細胞のような近い関係でも、共通の分子は一部で、大半はそれぞれの細胞特異的な分子が釣れてくる。そしてさらなる驚きは、この方法で中心体と相互作用すると特定された蛋白質の多くが、RNAスプライシングや、mRNAのプロセッシングに関わる分子で、通常は核内で行われていることが中心体でも起こっていることを示唆している。

次の問題はこの変化する分子リストの中から、どのようにその機能的意味を見いだしてくるかだが、Götzが用いた方法は、深い知識に裏付けられたさすがと思える方法だ。これまで自閉症の科学の記事の中で、小児神経疾患に生殖細胞形成過程や発生初期に新たに発生するデノボの変異が大きく寄与していることを示してきたが、これまで神経疾患に関わるとされているデノボ変異のリストを、中心体と相互作用する分子のリストと比較して、中心体に集まる分子の機能を特定しようとした。

結果は期待以上で、多くの神経発生異常に関わるデノボ変異は、中心体と相互作用する分子に濃縮されている。すなわち、神経発生に中心体が重要な働きを示すことがわかる。ただ、例えば自閉症に関わるデノボ変異で中心体と相互作用する分子はそれでも400以上存在することから、それぞれの機能については他のアプローチが必要になる。

そこで、Götzは、お得意の神経幹細胞から神経細胞への分化過程で起こる細胞移動に注目し、この過程の以上として知られる「脳室周囲結節性異所性灰白質(PH)」として知られる、神経幹細胞の脳室周囲から皮質への移動が傷害される病気に注目し、この病気に関わるデノボ変異の一つでスプライシングに関わるPRPF6分子の機能と中心体について詳しく検討している。

詳細を省いて結果を述べると、

  1. 中心体は、核外オルガネラではあるが、RNAスプライシングに関わる分子を集めて、スプライシングに関わっている。PPRP6も中心体に局在している。
  2. PRPF6のデノボ変異により、神経幹細胞は分化しても、皮質への移動が出来ない。
  3. この移動異常は、様々な遺伝子のスプライシング異常に起因するが、特に微小管の胴体に深く関わるキナーゼBrsk2分子のスプライシング異常が、移動を阻害している。また、正常Brsk2を細胞に導入すると、発生異常を抑えることが出来る。
  4. PPRP6蛋白質と同じで、Brsk2-RNAは中心体近くに局在し、そこでスプライシングされる。

以上が結果で、中心体がもう一つのRNAプロセッシングサイトとして働いていること、またそれにより効率よく細胞の基本機能を分化に合わせて調節しているという、全く新しい世界が見えてきた。今後、フラジャイルX症候群のようなスプライシング異常はもとより、多くのデノボ変異の機能を中心体から見ることで、病気の理解が大きく進むのではと期待できる。素晴らしい研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:中心体がもう一つのRNAプロセッシングサイトとして働いている
    2:それにより効率よく細胞の基本機能を分化に合わせて調節している.
    Imp:
    中心体でRNAプロセッシングとは。。。

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