2015年1月なので、今から8年前に紹介した論文なので、覚えておられないか、あるいは見たこともないと思うが、組織を10倍に膨らませてから観察して、顕微鏡の限界を補うという、まさに逆転の発想で開発された expansion microscopy を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/2759)。テクノロジーは紙オムツの原理で、組織内でアクリルを重合させた後、水につけるとアクリルに水がトラップされ、その結果組織が拡大する減少を利用している。要するに、顕微鏡の性能を上げる代わりに、組織を大きく見やすくする技術と言える。
しかし、あれから8年たつのに、普及は遅れているようで、毎日論文を読んでいてもこのテクノロジーを用いた研究をほとんど見かけない。今日紹介するカーネギーメロン大学からの論文は、これまでの expansion microscopy に様々な改良を加え、さらに応用範囲を高めた技術開発研究で1月2日 Nature Biotechnology にオンライン掲載された。タイトルは「Magnify is a universal molecular anchoring strategy for expansion microscopy(Magnifyはexpansion microscopyに使用可能な様々な用途に使える分子を局在化させる技術)」だ。
Expansion microscopy の普及を阻んでいたのは、拡大できる組織が神経組織に限定されていたこと、そしてアクリルの浸透を高める処理のため、細胞内の分子の局在が保存されないという問題があった。この研究では、小さな化合物 Metacrolein を用いて、蛋白質、核酸、脂質を重合したポリマーに結合させることで、ほぼ全ての生体分子の局在が、組織拡大後も保存されるようになり、また生体高分子の抗原性を維持するいくつかの工夫を加えることで、従来の expansion microscopy の問題をほぼ解決することに成功している。その結果、
- 強いフォルマリン処理を施した組織でない限り、ほぼ全ての組織のパラフィン標本も、割れることなく元の形態を保ったまま拡大できる。
- 蛋白分解酵素で細胞内にアクリルを浸透させる処理を工夫すれば、蛋白質の多くの抗原決定基を保存でき、蛍光抗体法を拡大標本で使える。また、in situ hybridizationで DNA や RNA の局在を特定できる。そして、脂肪に関しても局在を保ったまま、標本内で保持できる。
- その結果、通常の光学顕微鏡では見るのが難しい、シナプス接合、繊毛、鞭毛、など通常電子顕微鏡が必要な構造についても、光学顕微鏡で見ることが出来、それを電子顕微鏡像とともに示している。
結局、写真を見ないとそのパワーはわからないが、かなりのレベルだと感じる。
結果は以上だが、評価は今後の発展次第だろう。多くの大学や研究機関では高解像度の顕微鏡を使うことが出来るようになっている。それを超えて、こちらの技術を使おうと思うためには、さらに異なる用途を開発する必要がある。
これを読んで個人的に思いついた用途が、初期胚のwhole mountで、7日胚以前の胚が、10倍とまでは行かなくても、5倍に大きくなるだけで、発生学にとっては革命的な技術革新になると思う。ぜひ、5倍に膨らました、マウス7日胚を見てみたい。
これまでのexpansion microscopyに様々な改良を加え、さらに応用範囲を高めた技術開発研究.
Imp;
被写体を拡大させて観察する。。眞に逆転の発想!