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12月23日 K-Rasの徹底的解析(12月20日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月23日
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今日の4時からZoomで今年の生命科学を振り返ることにしている(https://aasj.jp/news/seminar/23522)。ただ各雑誌が選んだ内容を見てみると、今年はちょっと物足りないかなと思ったので、Nature、Scienceの記事を紹介した後は、私が読んだ中から今年の注目を紹介する予定にしている。

今年の創薬分野で私が注目したのは、新しいメカニズムのRas阻害剤が開発され始めたことだ。これについてはZoomで詳しく述べようと思っているが、今日紹介するスペイン・バルセロナ科学技術研究所からの論文は、K-ras分子に1-2アミノ酸変換が起こる変異を導入して、主にRaf蛋白質との結合を丁寧に調べ、Ras分子機能阻害や機能亢進に関わる部位と、その生物物理学的特性を調べた力作で、12月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The energetic and allosteric landscape for KRAS inhibition(K-ras阻害のエネルギー的、アロステリック的構造マッピング)」だ。

この研究ではRas遺伝子にランダムに切れ目を入れ作成した、26000種類以上の変異ライブラリーから合成されるRas蛋白質とRafの結合反応を protein fragment complement assay(RasとRafが結合すると機能的蛋白質が形成され、細胞が増殖したり蛍光を発することでRasとRafの結合定数が計算できる)定量している。

こうして2241種類のアミノ酸置換がRaf結合性の低下を示すが、この多くは変異によりRas蛋白質自体が3次元構造を取れず分解されてしまうためで、残りがRaf結合に影響する変異と特定できる。

こうして得られるRaf結合マップから、Rasの機能的構造を描いていくと、これまで構造解析だけではわからなかった新しいポケット構造、そしてRasの構造変異により遠隔部位の構造を変化させるアロステリック効果マップを作ることが出来る。また、Rafだけでなく、他のRas結合分子との結合定数の変化も一部の構造について計算し、Ras分子構造の機能的解剖マップを完成させている。

このマップから得られる結論をまとめると、

  1. K-Rasには多くの阻害的アロステリック変化を起こす部位が存在し、これらは新しい創薬ターゲットになる。
  2. ほとんどのアロステリック阻害部位は、Rafだけでなく他の分子との結合も阻害する。
  3. 他の分子との結合部以内にはより多くのアロステリック阻害部位が存在する。
  4. これら部位の変異の種類でK-Ras分子と他のパートナーの結合阻害の特異性が決まる。
  5. K-Rasには4種類のポケットを特定できるが、アロステリック阻害活性はアロステリックな効果が高い。

以上のことは、K-Ras分子標的薬の開発をもう一度新しい方向から見直すことが十分可能であることを示している。

この論文を読んで思い出すのは、紹介しなかったが今年10月中外製薬の研究所からJournal of American Chemical Societyに掲載された環状ペプチドを用いた創薬プラットフォームと、これを使った新しいK-Ras阻害剤の開発だ。

最終的に開発されたLUNA18は経口投与で2-4割が血中に入り、なんとサブナノモルレベルでほとんどの変異K-Rasを阻害する。これについては、今日の今年を振り返るで日本の可能性として是非取り上げたい。いずれにせよ、現在使われているRas阻害剤を越える薬剤が続々出てくる時代を迎えそうだ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    こうして得られるRaf結合マップから、Rasの機能的構造を描いていくと、
    1:構造解析だけではわからなかった新しいポケット構造がわかる。
    2:Rasの構造変異により遠隔部位の構造を変化させるアロステリック効果マップを作ることが出来る。
    Imp:
    protein fragment complement assayは、細胞内に置かれたRasにより近い構造を再現可能ということでしょうか?
    現在の構造生物学技術やスパコンでも、細胞内に置かれたときの正確な立体構造までは再現不可能(究極の、真のRasの姿は捉えられない)と聞いたことがあるもので。
    量子コンピューターの出番でしょうか?

    1. nishikawa より:

      これは完全に生物学的方法で、合成されたRasとRafの結合の強さにより、細胞内でのレポーターの機能が決まるように出来ています。

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