人間は数という抽象的ラベルを、様々な対象に当てはめて使うことができる。例えば two cars、two apples、 two dogs などだ。すなわち抽象的なラベルと、実際の対象物を区別して理解し、それを自由に組み合わせる能力を持っている。
この能力が NVIDIAのTitan 上のニューラルネットを学習させることで発生することを Nature に報告した研究を以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/23158)ので、是非読み返してほしいが、まさに同じ問題を今度は12ヶ月の幼児で調べた研究が米国コネチカット州の Haskins 研究所から7月9日 米国科学アカデミー紀要に発表された。タイトルは「Early-emerging combinatorial thought: Human infants flexibly combine kind and quantity concepts(異なる概念を組み合わせる思考は早くから発生する:人間の幼児は種類と量の概念をフレキシブルに組み合わせることができる)」だ。
この研究の question は、ようやく単語を理解するようになった12ヶ月の幼児が、one apple、two apples、one car、two cars と絵を見ながら聞いたときに、数の概念を他の対象物、例えば dog に適用して理解できるかということで、人間と AI の違いはあるが、課題はほぼ同じと言っていい。
ただ人間の場合、数を表現する one、 two といった単語をすでに学習している可能性があるので one、two の代わりに mize と padu を使って数を学習させている。学習もニューラルネットと同じで、画面を指し示しながら、padu apples、mize car といった具合に数のラベルが対象物と連結しているのを学ばせ、学習のあとで、画面に対象物を変えて、数と対象物の組み合わせを画面に表示し、which is padu balls ? と質問したとき、正しい答えを見つめる時間を計って、理解したかどうかを決めている。
最初は画面に、同じ対象物を一個と二個それぞれ違う場所に示してどちらを見るかという簡単な問題から入り、次に one or two ラベルを異なる対象物に組み合わせて、which is padu boxes? と聞いたとき、数と対象物の正しい組みあわせを選ぶ問題に移り、最後は対象物がミックスして2個になっている、例えば apple and car が組み合わさって2個という組み合わせも提示したとき、which is padu cars? と聞いたとき、car が2台揃った画面を見るかどうか調べている。
いずれの実験も、質問に対する正解を見つめる時間が最も長いので、12ヶ月の幼児が数と対象物を別々に認識して、数のラベルを他の対象物と組み合わせて理解できると結論している。
結果は以上で、幼児の頭の中でそれぞれがどう処理されているのかを今後調べる必要がある。おそらく様々な脳イメージングを用いて、同じ課題で活動する脳領域が研究されるだろう。ただ、子供の場合イメージングには限界がある。これまで数の処理に左頭頂葉が関わり、これが傷害されると数認知障害に陥ることが知られているが、数の理解が発生する過程はほとんど研究できていない。
こう考えると、AI で学習できる課題であることは間違いないので、人間の学習と、AI の学習を直接比較し、研究する新しい方法が重要になる気がする。今年2月、幼児の実体験をトークン化して AI にインプットして、言語の発生を調べる画期的研究を紹介した (https://aasj.jp/news/watch/23861) 。おそらく、このような方法を組み合わせることで、数がどう処理されているのか、少なくとも多次元空間内の位置として、対象物との関係を調べることができると思う。
間違いなく、人間の脳と AI を比較する新しい研究領域が始まった。
AI で学習できる課題であることは間違いないので、人間の学習と、AI の学習を直接比較し、研究する新しい方法が重要になる気がする。
Imp:
人間の脳と AI の比較!
『数学セミナー』(日本評論社、2024年8月号)
脳と生成AIを巡って(合原一幸先生)
次回はAIと脳でやります。合原さんは個人的にも知っていますが、数学セミナーのコピー、pdfで送ってもらえますか