ヘリコバクターを始め様々な細菌がガンの増殖を誘導することが知られている一方、ガン組織の細菌叢を調べる研究が行われた結果、膵臓ガンをはじめとするいくつかのガンで、特に嫌気性菌叢が成立するとガンに対する免疫が誘導されやすく、ガンの予後が改善していることが示され、このブログでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/10700)。「ならば」と、嫌気性腫瘍環境でのみ増殖できる細菌を作成してガン免疫を誘導する研究が行われている。うまくいけば安上がりのガン治療になると期待できる。
今日紹介する深圳先端技術研究所を中心とする中国研究グループからの論文は、腫瘍の嫌気条件だけで増殖できるよう遺伝子改変したサルモネラ菌がガンの増殖を抑えるメカニズムを明らかにした研究で、3月3日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Bacterial immunotherapy leveraging IL-10R hysteresis for both phagocytosis evasion and tumor immunity revitalization(バクテリア免疫療法は、 IL-10受容体のヒステリシスを高め、貪食能と腫瘍免疫の再活性化を誘導する)」だ。
このバクテリアは好気条件では増殖が抑えられる回路を導入されている。驚くのは、静脈注射するだけでガンを移植した嫌気条件に潜り込んでそこで増殖することで、1千万個注射するだけで移植したガンの増殖を強く抑制できる。また、大腸ガン自然発生モデルでもガンの発生を予防できる。この効果がガンに対する免疫誘導であることは、同じガンを他の場所に移植するとすぐに拒絶されるが、他のガンは全く拒絶できない。
期待通り腫瘍組織内のCD8キラー細胞が増加するが、外部からガン組織へのリンパ球流入をブロックしても影響がないので、局所のキラー細胞だけを増殖させている。そして最も驚くのは、この機能が IL-10を抑制することで消失する点だ。IL-10 は抗炎症性のサイトカインで、ガン抑制の逆の作用があると考えられていた。しかし最近になって、キラー細胞の再活性化を強く誘導することが知られるようになり、治験も行われ始めている。その意味で、バクテリア免疫療法が IL-10を介しているという発見は重要だ。
腫瘍組織を調べると、キラーT細胞とマクロファージが IL-10受容体を発現している。さらに、IL-10自体はマクロファージや発見球が発現している。試験管内刺激による研究から、低濃度のIL-10でも、IL-10によって IL-10受容体の発現がさらに誘導されるというサイクルが始まって、キラー細胞やマクロファージが活性化されることがわかった。
そして、腫瘍組織内のマクロファージがバクテリアを貪食した結果 IL-10が誘導され、これがタイトルにあるヒステリシスを誘導し、マクロファージもキラー細胞も活性化サイクルに入ると考えられる。一方で、IL-10 は好中球の腫瘍組織内の活性化を抑え、バクテリアの増殖を維持できるようにしている。
以上が結果で、メカニズムも納得できるので、あとは人間で同じようにガンの抑制が可能か調べるだけになった。人間の場合、原理的には局所注射で十分だと思うが、実現すると安上がりのガンの免疫療法が実現するのではないだろうか。
1:この機能がIL-10を抑制することで消失する点
2:IL-10は抗炎症性のサイトカインで、ガン抑制の逆の作用があると考えられていた。
3:キラー細胞の再活性化を強く誘導することが知られ、治験も行われ始めている。
Imp:
数日前FBにupした論文ですが、その時は、良く理解できませんでした。
『IL10は抗炎症性のサイトカイン』と頭に浸み込んでいたので??でした。
今日で理解できました。
Cytokine創薬も海外では盛り上がっているようです。
IL15スーパーアゴニストAnktivaなど。。
免疫チェックポイント阻害薬との併用治験など楽しみです。