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3月31日 進むAsgardアーキアの進化研究(3月21日 Cell オンライン掲載論文)

2025年3月31日
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環境中に存在するDNA配列から存在する生物を予想するメタゲノム解析で、真核細胞と古細菌の中間に存在するAsgardアーキアの発見をこのブログで紹介したのは2017年1月だったが(https://aasj.jp/news/watch/6362)、その後我が国産総研のチームにより、なんと12年もかけて生きたAsgardアーキアの分離方法が確立され、2019年サイエンスが選んだブレークスルーに選ばれた(https://aasj.jp/news/watch/12204)。  その後2023年にスイスのグループにより培養細胞の解析が行われ、細胞骨格など様々な性質がまさに真核生物への進化をたどる重要な情報を提供していることがわかった(https://aasj.jp/news/watch/21164)。

今日紹介するのは同じスイス・チューリッヒ工科大学からの論文で、真核生物の細胞骨格や細胞分裂に関わる微小管のプロトタイプを探索した研究。3月21日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Microtubules in Asgard archaea(Asgard archeaの微小管)」と、極めてシンプルなタイトルだ。

この研究ではまず培養されている Candidatus Lokiarcheum osssiferum を電子顕微鏡で調べ、細胞骨格用の構造が細胞内に検出でき、これまで真核細胞以外で発見されていない微小管様の構造が確かに存在することを確認している。

次に、この細胞から微小管コンポーネントであるチュブリン遺伝子を分離、その進化を調べている。真核細胞ではα、β のチュブリンコンポーネントが結合した2量体が構造の基本となるが、Asgardアーキアでは、AtubAとAubB、そしてその相同遺伝子AtubB2を特定している。この分子の系統関係を調べると、真核生物のチュブリンの系統に収まることから、まさに真核生物進化の中間に存在していることがわかる。さらに驚きは、これまで例外的に発見されていたバクテリアの BtubA/BtubB も同じ系統樹に乗っており、AtubA/AtubB と極めてよく似ていたことで、おそらくこれはAsgardアーキアから水平遺伝子伝搬したと考えられる。

残る問題は、AtubA/AtubB が微小管を形成するかになる。様々な条件を試した結果、グルタミン酸カリウム存在下で、GTP依存的に AtubA/AtubB の2量体が重合した微小管が形成されることを確認している。

すでに述べたようにAsgardアーキアにはAtubB2相同分子が存在するが、これが存在すると AtubB は競合的に AtubA から追い出され、AtubA/AtubB2 の2量体が形成される。これも重合して微小管を形成するが、構造的には異なる微小管が形成されることも示している。

こうしてできる微小管を真核生物の微小管と比べると、シャペロンなどがなくても試験管内で重合できてしまう点で大きく異なる。GTP 分解能力もないことから、調節性は少ない様に思える。一方、低温で分解する点は真核生物と共通だが、温度は4度まで下げる必要があり、もっと高い温度で分解する真核生物の微小管とは異なる。

最後に、細胞内でどのように存在しているのかを実際の細胞内で調べ、増殖期に強く発現すること、そのときに重合した微小管が形成されているが、それ以外のステージでは消失することを明らかにしている。

以上が結果で、Asgardアーキアが真核生物進化を理解する鍵になることが、微小管形成という真核生物特有の性質のプロトタイプが存在することでまたまた明らかになった。極めてゆっくりしか増殖しないこと、他の Asgardアーキア系統が分離できていないことなど様々なハードルはあるが、徐々に真核生物進化過程が明らかになっていく実感がある。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Asgardアーキアが真核生物進化を理解する鍵になることが、微小管形成という真核生物特有の性質のプロトタイプが存在することでまたまた明らかになった。
    imp.
    真核生物への進化!
    プロトタイプが存在していたとは!

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