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8月26日 腸管上皮の類人猿からヒトへの進化(8月21日号 Science 掲載論文)

2025年8月26日
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様々な細胞系列へと分化できるiPS細胞は、実験的進化研究の重要な土台になる。特に古代人も含めて全ゲノムデータが揃ったおかげで、ゲノムレベルの進化を実際の細胞で確かめたい時にはほとんど必須のツールになりつつある。とはいえ、この方法は脳進化によく用いられるようになったが、他の臓器はまだまだ利用が進んでいない。

今日紹介するデューク大学、ミシガン大学、そしてバーゼル大学が共同で8月21日号 Science に発表した論文は、これを腸管上皮の進化について行った研究で、タイトルは「Recent evolution of the developing human intestine affects metabolic and barrier functions(人間の腸管の最近の進化は代謝とバリアー機能を変化させた)」だ。

以前チンパンジーとヒトの脳の大きさの違いの背景について研究した論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/26767)、方法は少しづつ違うが枠組みは同じなので参考にしてほしい。

この研究でもまずヒトの腸管上皮の単一細胞レベルの遺伝子発現から、様々な細胞の特徴的な遺伝子セットを特定し、2つの種で起こったアミノ酸変化のない変異と、アミノ酸変化のある変異の比を計算して、アミノ酸変化のある変異の多い強く選択された遺伝子をリストするとともに、それぞれの遺伝子の調節領域の変異を調べる方法を組み合わせて、調節領域のサルからヒトへの変化もリストしている。この領域特定には教師付のAIが役に立つことも示している。

次に、ヒトのiPS細胞から腸管オルガノイドを作成し、まだ未熟な部分をマウスの腎被膜下に移植する方法で成熟させる方法を開発し、これにより誘導される腸管上皮がほとんど正常と変わらないこと、そしてこの細胞を用いてsingle cellレベルの遺伝子発現テストが可能なこと、そして遺伝子調節領域、特にエンハンサー活性を蛍光遺伝子を指標に調べられることを確認している。

そのあと、同じ方法でチンパンジーiPS細胞から腸管オルガノイドを誘導し、組織形態、遺伝子発現、クロマチン状態などから正常の腸管上皮に近いことを確認している。

その上で、ゲノム発現量、クロマチンの変化を調べる Atac-seq などによる解析と比較を行って、それぞれの細胞の違いを明らかにした結果、

  1. マウスも含めて比較したとき、ヒトへの進化だけで大きく変化する遺伝子が数百種類存在すること。
  2. その中で選択圧にさらされ進化してきた遺伝子が40種類ほど存在し、バリア機能や脂肪吸収に関わる遺伝子の大きな変化が見られること。

などを示すリストを作成している。

その上で、いくつかの遺伝子について特定した調節領域の変化がオルガノイド実験系で、サルからヒトへの過程での遺伝子発現進化を説明できることを示している。

例えば

  1. 乳酸を分解する酵素に関わるMCM6のヒト調節領域が長期に渡るこの遺伝子の発現維持に必須であること、またこの発現に関わる新しい調節領域の特定、
  2. 十二指腸のアイデンティティーに関わる分子PDX1が人間で強くなる発現調節領域の特定と、この領域が欠損して十二指腸アイデンティティーが抑えられると脂肪吸収が低下すること、
  3. そして insulin like growth factor シグナルに関わる分子の発現がヒトとチンパンジーの腸管の発生と機能に関わること。

などを明らかにしている。

大変な量の仕事でさすがに3つの研究室が総合で関わった感がするが、腸管の発生の進化は絶対に面白いし、細菌叢との関わり、あるいは今はやりのインクレチン遺伝子調節など、今後重要な研究分野になる気がする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    マウスも含めて比較したとき、ヒトへの進化だけで大きく変化する遺伝子が数百種類存在すること。

    その中で選択圧にさらされ進化してきた遺伝子が40種類ほど存在し、バリア機能や脂肪吸収に関わる遺伝子の大きな変化が見られる.

    Imp:
    腸管も明らかに進化している。

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