この10年中国の研究力は急速に高まっており、毎日論文を読んでいるとそのことを強く実感する。論文を読んでいて、中国研究の一つの特徴は、なかなか考えつかない発想を基盤とするチャレンジ精神だと思う。と言っても、これまではこのチャレンジ精神は、例えばiPS細胞やTregと言ったオリジナルな発想ではなく、あくまでも普通考えない可能性で、結果はそれまでの考え方の枠内でとどまっていた。しかしこのチャレンジ精神こそ新しい実用には重要で、中国技術躍進の核になっていくように思う。
このことを如実に語る例が DeepSeek で、まず昨年の9月、Nature にアーキテクチャーを開示した点で驚いたが、論文を見ると他の大規模言語モデルが出来るとわかっていてもやれなかったチャレンジ、即ちLLMの学習に強化学習を導入して人間の関与を大きく減らすというチャレンジが行われていた。我が国では Deppseek を ChatGPT や Gemini との性能比較だけで議論されることが多いが、強化学習を導入したモデルであることこそ評価されるべきだと思う。このチャレンジを続けていけば、例えば Transformer を過去のものにするイノベーションも可能になる予感がする。
大きく脱線したが、今日紹介する中国精華大学からの論文は、新しく発見された頭蓋骨髄から脳へ直接移動する白血球を利用して脳損傷を治療する可能性をマウスから始めて臨床まで進めた研究で、1月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nanoparticles hijack calvarial immune cells for CNS drug delivery and stroke therapy(頭蓋免疫細胞をハイジャックしたナノ粒子を脳卒中の薬剤デリバリーに使う)」だ。
2018年9月、頭蓋骨髄から直接脳へつながる血管ルートが存在し、それを通って白血球が脳卒中部位に移動することを示したハーバード大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8894)。この事実に着目し、移動する白血球に薬剤を運ばせる方法開発にチャレンジしたのがこの研究だ。
方法だが、ペンシルバニア大学から2022年に発表されたアルブミンをクロスリンクしたポリエチレングリコールで形成されるナノ粒子が選択的に白血球に取り込まれ,肺での炎症を抑える薬剤デリバリーに使えることを示した(file:///Users/snishikawa/Downloads/s41565-021-00997-y.pdf)ナノ粒子を用いている。
即ち、ハーバードとペンシルバニア大の技術を融合させただけと言えばそれだけだが、ナノ粒子を頭蓋骨髄に注射することで、骨髄内の白血球にナノ粒子をロードすることが出来、その白血球は卒中による脳損傷部位に選択的に移動することを確認した後、マウスを用いて卒中治療の前臨床研究に進んでいる。
使った薬剤はカナダのバイオベンチャーにより開発された Tat-NR2B9c と呼ばれる薬剤で、PSD-95に結合してグルタミン酸受容体の過興奮を抑えて脳を保護する薬剤で、現在第三相治験が行われている。
これをナノ粒子に詰め込んで、中大脳動脈を結紮して起こした脳卒中マウスの頭蓋骨髄内に注射すると、ナノ粒子を使わない静脈注射や、頭蓋骨髄内注射と比べ、何よりも脳の萎縮が起こらず治療が可能で、死亡率も低く、さらに回復後の機能も他のグループと比べ改善程度が高い。
そしてこの方法をそのまま、悪性中大動脈梗塞患者さんに使っている。ただ、Tat-NR2B9c はまだ許可されていないので、中国で許可されている脳細胞保護剤を用いている。1/2相試験なのでまず安全性が重要だが、保存治療に比べて死亡率が2割から3割に上がっているのは気になる。ただ、注射による直接の副作用はないと結論している。
その上で、90日目での最終結果を見ると、寝たきりのままの状態を5割から1割へと大きく減らすことができる。さらに、歩行器で歩けるようになる確率が2割から5割へ上昇するので、素晴らしい結果だ。
以上が結果で、いくつかの技術をまとめて素晴らしい治療に仕上げるという、私が今中国の研究に感じているチャレンジの典型論文だと思う。確かに基本技術はまだ他から集めてきているかもしれないが、この延長に本当の大きな発見があるのは、我が国のノーベル賞受賞者を見るとわかる。今後は、他の病気も視野に入れた研究を進めてほしい。

いくつかの技術をまとめて素晴らしい治療に仕上げるという、私が今中国の研究に感じているチャレンジの典型論文だと思う!
imp.
中国の強み!
世界からのヒンシュクなど、気にも止めない前進力。
今、この行動力が注目されていると思います。
中国と組めば、アメリカをアット言わせる偉業が可能かも?